ベルサイユ製麺

ファースト・マンのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
3.9
あらやだ、デイミアン・チャゼルですよ!
『セッション』、続く『ラ・ラ・ランド』で大いに喝采を浴びながらも、JAZZ警察にピッタリマークされた事に嫌気がさし、今回は宇宙物に鞍替えしました。…でも宇宙にはきっと宇宙警察が居るよ?サイバリオーン!!

個人的にはチャゼルは“別に嫌いじゃない”ぐらいの位置付けの監督です。別に町山vs菊地論争とかも関係無く。
まあチャゼル節って、なんか有りますよね?作品世界に力尽くでぐいぐい惹き込み、観客もストレンジャー気分にして、時を忘れさせるような体験から一気に強制ゴールインさせてしまうような。だから、“世界初、月に降り立った宇宙飛行士”の話と聞いても意外としっくりいくんじゃないかと思ってたんですけど、実際観てみると想定してた以上にストレンジな作品でしたねー。
主人公ニールはエンジニア気質で鋼のメンタル。物静かで冷静沈着、わあわあ喚いたりしない。大凡宇宙を描く大作の主人公には似つかわしく有りません。しかも演じるのが、いつもメンタル不安の役ばっかりのライアン・ゴズリングですよ。…まあ、この配役に何か特別な意味があるかと言えば、チャゼル的には単に気に入ったし普通に出来そうだったからかな?とは思いますけど。
物語はおそらく相当に史実に忠実に再現されているのでしょう。過剰にドラマチックでも無くて当たり前にリアル。事故で次々とクルーが命を散らしていく、その描写の呆気なさには心底心が冷えました。(おそらく知らされてないだけでソ連側はもっと…)
前作『ラ・ラ・ランド』と比較して、余りにも地味な人間ドラマ、淡々としたモンド風の劇伴に加え、文字通りの意味で“単に”視野狭窄的な撮影も相まってとてもとてもストイックな雰囲気。正直、当時の姿勢の人々同様に、なんでこの人たち税金ジャバジャバ使って、“月”にそんなに拘るの?メンツだけなんじゃないの?…なんて思ってましたよ。クライマックス迄は…。

月面のシーンの圧倒的な実在感!!!!!

最後にこれ見せられたら、細々した鬱憤なんて全部吹っ飛びます。なんかね、いまいち捉え難かった登場人物皆んなの気持ちが一瞬で分かった気がしましたよね。このラストから逆算すれば、確かにこの作りが正解です。うーん、チャゼルってなんかやっぱり策士って感じだなぁ。…なんとなく、この大団円の有り様って『いだてん』に近いですよね⁉︎ね?
…まあ、とにかく観ないことには何にも分からない作品の典型だと思いますので、サクッと観ちゃうと良いと思います。宇宙〜ロケット周りの描写も病的な拘りようで、宇宙警察の皆さんも納得でしょう。感想もアッサリ目で切り上げまーす。

…しかしまあ、なんですね。実際はこのアポロ計画の成功を皮切りに爆発的な勢いで宇宙開発が進み、結果的にオートボットとディセプティコンの地球を巻き込んだ抗争が勃発したり、ナチスが月の裏側に基地を作ったり、フォンブラウン市がティターンズに襲われたりといったその後の史実を知ってしまっている我々としては、ちょっと複雑な気持ちではありますよね…。