10円様

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書の10円様のレビュー・感想・評価

3.6
ハリウッドには「ブラックリスト」というシステムがある。名前だけ聞くとなにやら訝しげなイメージを受けるかもしれないが、これは映画化されていない脚本を発掘するプロジェクトの事であるらしい。過去は「JUNOジュノ」「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「イミテーションゲーム」などが世出し、脚本家としての有名無名に関わらず「良い物」を作り出す民主的意味合いを備えたシムテムであると思う。今作もそのブラックリストから発掘された作品である。
この脚本を発掘したのがエイミーパスカルという製作者で、スピルバーグも脚本に惚れ込み製作に至った。当時アメリカではトランプ大統領のメディアへの攻撃が表面化しており、それに異を唱え報道の自由を訴えるかのような、言わば映画人たちの武装攻撃のような映画である。
この時スピルバーグは「レディプレイヤー1」を製作中。93年にも行っているが、エンタメと社会派の二足のわらじを、しかも両者とも万全のクオリティーで同時に発表できるのは、さすがスピルバーグである。

報道の正義…をテーマにした映画は多々あるが、今作の面白いところはキャサリングラハムを中心に描かれるという点であろう。ベトナム戦争の泥沼化のあの時代、そこかしこ反戦のムーブメントで溢れていた。石を投げ勲章も投げ捨て、足を失った若者が拡声器で叫ぶ。しかし一国民が声を出したところで統治者には届かない虚無感。それを勇気を持って一石を投じたのが女性なのである。波紋はやがて波になり国を動かした。流石ともいうべきメリル・ストリープのあの温和ながら強い意志は、まさに今のアメリカが描きたかったものかもしれない。残念ながらマクナマラ文書については本当に勉強不足で物語について行けなかったのが情けないが、こうやって正義のために身を呈して動く人は、本当にかっこいい…

ギンレイホールではザ・シークレットマンと併上していて、今作の最後はフランクウィルズと思われる警備員がウォーターゲートホテルの部屋を見回るところで終わる。正に続編か?と思うほど。この映画館は本当に粋な組み合わせをしてくれて、こちらも今度観に行かなくては。
10円様

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