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心と体とのKSatのレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
4.0
ハンガリーの食肉加工工場を舞台にした、片手が不自由で孤独な男と、コミュニケーションが取れない若い検査官の恋。

「アメリ」や「勝手にふるえてろ」に連なる、コミュニケーションが取れない自閉的な女性の恋と進歩を描いた映画ではあるが、注目すべきは夢。彼らはなぜか、夜毎に夢の中で鹿になり、他愛もない交歓をするのだ。

鹿を夢判断で何と見るか、といったことはともかく、注目すべきは鹿の見事なまでの「振り」である。驚くほど心地の良い、安らぎを感じさせるような振りを見せるのだ。この鹿の居る情景だけでも眼福である。

途中で牛用の精力剤が盗まれるサスペンスが起きるが、これもなかなか面白い。二人が同じ夢を見ていることを明らかにする役割を担うとともに、主人公たちと「犯人」の、同じ工場にいる者のセックスに対する様々な苦しみ(前者はセックスできない苦しみ、後者はセックスされてしまう、しなければならない苦しみ)を浮き彫りにするのだ。

マッシュポテトを手で潰したり、公園のスプリンクラーの水を浴びたり、変なぬいぐるみを買ったりと、観る者の心をくすぐるフェティッシュな表現の数々もたまらない。中でもヒロインが夢を見るためベッドに就く時はゆっくりと自動的に起き上がるのに、バスタブに入る時はふにゃりと潰れたままになっているサンダルのベルトの表現は、なかなか見事。

工場の中の闇とモニター画面の光など、照明も凄い。一見すると最近の日本映画のようにシンプルで静かなつくりだが、時折現れるこういった照明には、驚かされるばかりだ。
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