まりぃくりすてぃ

はじまりの街のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

はじまりの街(2016年製作の映画)
4.8
良作!
でも、普通に期待される劇的な物事は、ただの一つも描かれてない。日常の懊悩がささやかな起伏を辿って続くばかりで。
設定提示の時間帯(最初の二十分弱)は、台本も演技もちょっと堅苦しかった。“半熟のゆで玉子をぱくぱくしたいのに、カッチンカチンの固ゆでを出された”みたいに。アドリブなんて一片もなさそうに。
けれど、観おわった時の充足感と納得度は、身震い級。「人生への信頼」「この世界への信頼」という忘れがちな最良の支柱を歌に懇々と説いてもらったし。

それにしても、ヒリヒリの時間が長かった。
プラスチックかシリコンのように素直で強靱だったはずの無邪気な13歳が、大人たちの(身勝手じゃないが少年にとってはきわめて無神経な諸言動によって)あっというまに薄ガラス化されてしまってから、「いつ粉々に割れちゃうか? 割れちゃうか? このナイーヴで綺麗なグラス」と私は目に涙溜めたまま見守らされて……。
ヒリヒリが本当に永かった。深めの擦りむき傷みたく。(譬喩がクドイか。)
でも、黄葉溢れ返る広々とした町に(気のよい女友達の)カーリーブロンドが嫌味なく馴染んでて、美景は「必ずや、救いが来るよね?」の鳥声を何だか湧かす。本当の悪人も善だけの完璧人もいない、リアルな景色。
少年を街娼さんが心正しい場所に連れていってくれて、本当によかった。彼女への手紙が変に魔法の小道具にならなくてよかった。バールの主人が英雄すぎなくてよかった。お母さんも(ちょっぴりはお父さんも)普通人のままでいてくれてよかった。(映像美以外)誰一人何一つ“映画的“にならないでくれて本当によかった!! リアルで!!!

でも、もう一回観たいとは思わないな。映画的じゃないから。