TakaCine

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイスのTakaCineのレビュー・感想・評価

4.2
【猫と犬の夫婦】
カナダで最も有名な画家モード・ルイスと魚の行商をする夫エベレット。

実在の彼らに失礼な気もしますが、ずっとそんな印象を抱きながら観ていました。

自分のテリトリーを守る犬
快適な住環境を創造する猫

概ね、男には犬的要素があって、女には猫的要素があるのではないでしょうか。

正反対の犬と猫同士、初めはぶつかってばかり。それが…

〈猫🐱〉
モードは住み込み家政婦としてエベレットに雇われ、最初は邪険に扱われながら食事や掃除を甲斐甲斐しくこなし、エベレット家の壁、扉、窓…目につく全てを、ちゃっかり彼女の好きな世界に染めていきます。そんな所が猫らしい。

〈犬🐶〉
エベレットは初めこそ犬らしく「勝手なことはするな!」「出ていけ!」と吠えたてますが、段々彼女のペースにのせられ「俺の物と、こっち側にはやめろよ」と釘を刺しつつ、彼女の居場所をいつしか認めるようになります。

出会って早々「俺がボス」「お前は、犬より鶏より順位が下」なんて言っていたのに(笑)

最後には猫(モード)の好きなようにさせる、犬(エベレット)が無骨ながら実は凄く優しかった❗網戸の場面は泣けますしね😭

猫は犬のないところを補い、犬は猫のないところを補う。それで完璧😆✨✨そんな夫婦でした。

【2人の名優をずっと観ていたい!】
話の展開や演出は王道の偉人物語すぎて、意外性も独創性も正直少なく感じました。鑑賞中、ガサツな男と聖女の組み合わせは『道』(フェリーニ)の焼き直しにさえ思えてしまいました。

それでも映画に流れる時間が幸福に満ちていたのは、モード色に創造されてゆくエベレット家のカラフルな風合い、2人の名優の醸し出す雰囲気が極上の輝きだったからです😍♪

厳しすぎる自然の中で、言葉なく佇む2人の姿、それもエベレットの手押し車に乗るモードの姿は、慎ましく支え会う夫婦になった2人の愛情が垣間見えて凄く好きでした😆

〈カラフルな世界観〉
エベレットのモノクロの殺風景な世界が、モードのカラフルで優しい世界に変わる驚きと感銘🎨‼️

4メートル四方のエベレットの家は、長年の雨風で傷んで彼の心象風景そのもののように暗い。そこへモードが明るく多彩な世界を塗り込んでいきます。

この家自体が1つの芸術作品と思えるくらい素晴らしかった😊♪花や鳥や蝶に彩られたカラフルな建具、調度品、小道具もシンプルながら全て愛らしかった🌼🌷🌿🐦🦋

〈実際に描いたS・ホーキンス〉
僕は『シェイプ・オブ・ウォーター』で初めて知った女優さんですが、本作でもモードとしての感情表現が素晴らしかった。語っている時も、更に寡黙な時でも増す豊潤な表現力。自分の幸福を追及する芯の強い女性を、抜群の個性と存在感で演じています。とても可愛らしかった。ますますファンになりました。

両親が絵本作家で、自身も絵の道を考えたことがある彼女が、劇中の絵をいくつか描いています(それが巧い!)。描いている時の手の表情が素敵だ。風変わりで純粋な女性でしたね。

ずっと絵を見ていると、何だか話しかけられているような、生き生きとした"命"を感じます。とてもユーモラスで、楽しい気分。どの色も豊かで綺麗でした!

〈磨きが掛かったE・ホーク〉
何が磨きが掛かったかというと、渋みと優しさ。元々、繊細な演技を得意とする彼が、エベレットとして無骨な荒くれ者で出てきた時の衝撃❗いつものニヒルな笑顔がない。机を叩き、悪態をつき、労働者風の薄汚い身なり。怒鳴り散らすしか能がない嫌われ者。

こんな奴に雇われに行くモードが不憫でした。相手、選びなよ!と思ったほど。

だけど、徐々にこの男の優しさが見えてきます。孤児院に育ち、人の付き合い方や信頼の作り方を知らなかっただけ。女性と一緒にいると、内心ドキドキした表情。動揺を威張った態度で隠す。そんな男を絶妙の演技でこなすホーク。

少ししか垣間見せない優しさ。

ホークは、エベレットが徐々にモードへの愛情に目覚める様を自然に表現してくれました。

モードの心の動きに気付いて、絵の売買を途中から断るエベレットの気配り。その時のホークの細かな演技が白眉。そして薄汚れていても格好良さは消えない(笑)ズルい男です。おやおや、ホークの感想がつい長くなってしまった😁(昔からファンなんで)

モードの死後、エベレットも絵筆を執るようになったとは、いかに奥さんから影響を受けていたんでしょう。そして愛していたんでしょう。

モードはエベレットで、エベレットはモードでした。

不器用な2人が、お互いの中にかけがえのない愛を見つけた物語。

この2人をずっと見ていたかったです!
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