ベルサイユ製麺

ポリーナ、私を踊るのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ポリーナ、私を踊る(2016年製作の映画)
3.3
我輩の感覚器は、悲しむべきことに美に触れるためのチューンナップを為されておらず、モニターの中で揺れ、止まり、弾けるダンサーの一挙一動をどのように捉えれば良いのか判然としない。特にそれが古典的、伝統的な表現となると尚の事で、有り体に言えば“分からんちん”なのです…。

ロシアの寂しい街(どのぐらい寂しいかというと原発がガンガン湯気を上げまくっているくらい)の貧しい家庭で生まれ育った少女ポリーナ。彼女はバレエダンサーに成るべく、小さな頃から遠路を歩いてバレエスクールに通います。彼女の、誰とも違う資質を見出した師ボジンスキー(良い名前!)の元ポリーナは成長し、とうとうボリショイに入団する程になります。熊はいない方のですよ!…しかしポリーナの情熱と誰とも違う個性の有り様は彼女を孤立させ、ひとところに留まるのを困難にします。ロシアからフランス、そしてベルギー。ポリーナのダンサーとしての自分探しの旅。
原作はフランスのグラフィックノベル?だそうです。山岸涼子さんみたいの想像したけど、漫画とは違うのかな?

ストーリーはほぼ有って無い様なもので、ひたすら本能の赴くままに次の舞台へと流れていくポリーナの姿が描かれるだけ。一応、父を巡る事件性の有る出来事も有るものの、その背景や顛末も全く描かれず、どちらかと言えばポリーナの心境の変化を促すための装置程度の役割しか与えられていない様に思えます。
物語の平坦さに合わせてか、演出や撮影も安易なエモーションに逃げない落ち着いたもので、ドグマ95の作品の様な雰囲気でも有ります。
物語に大きな展開が無く、見た目の変化も乏しい作品の、何処に注目すれば良いかと言えば、それはもうポリーナのダンス!という事になり、それで冒頭の私の言い訳に戻るのですが、…分からない!凄いのは分かるけど、どのぐらい凄いのか分からない。多分、彼女がどのくらいの才能の持ち主なのかって、物語のキモの部分ですよね。だからそこの部分が分からないとなると映画全体がボヤーっとした印象になってしまう。完全に自業自得です。悔しい。

ところでポリーナ、クラシックバレエからコンテンポラリーに移行していき、ラスト、“私らしい踊り”としての長めのコンテンポラリーダンスシーンで終わるのですが、こういう展開って現役で膝をいじめ抜きながらクラシックバレエに打ち込んでいる人にはどう映るのでしょうね?ちょっと気になってしまいました。余計な心配ですかね。
作中で唯一、ハッキリとコメディ的なシーン。“バーのバイトして、帰るとベッドに倒れこむ”その一連の流れを素早く何度か繰り返します。確かにユーモラスでつい笑ってしまいますけど、実際には殆どの人がそうやって生きてるのだと思うのですけどね。心がざわっとしましたよ。そうじゃない人の為の映画なのかな?実際フランスにはジャンルとして“そういう人”の為の映画がありそうな気がします。

映画全体のトーンは好き。でも残念だけど、コアになる部分が理解不可能でした。バレエには漫画ぐらいでしか触れていませんし、芸術に理解のない無教養な自分が一方的に悪いのです。
…でも、作中頻繁に流れる、20年以上前くらいのセンスのめちゃ早BPMのアシッドトランスみたいなBGMはマジで全然良くないと思いますよー。