茶一郎

シェイプ・オブ・ウォーターの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.3
 エンパイア・ステート・ビルから落下するキングコング。海の底へと沈んでいく半魚人ギルマン。「叶わぬ恋」を象徴するかのようなモンスターたちの恋を、『大アマゾンの半魚人』から実に63年ぶりに叶えてみせる『シェイプ・オブ・ウォーター』。この繊細で美しい愛の物語を語ったのは、「メキシコのオタク番長」、「マスター・オブ・モンスター」、映画を通して異形の者へ愛を一貫して注ぎ続けてきたギレルモ・デル・トロ監督でした。
 
 舞台は米ソ冷戦下、アメリカが最も差別的だった時代。その厳しい時代に、言葉を失った主人公イライザ、その友人の黒人女性、同性愛者の画家、彼らマイノリティの登場人物たちが身を寄せ合い生きています。
 そして、厳しいスペイン内戦の世界に幻想の世界を見出した『パンズ・ラビリンス』の少女オフェリアと同じく、彼らもまたクリーチャー半魚人という幻想の世界と出会いました。

 過去作『ヘルボーイ』にて、ヘルボーイと人間リズとの恋愛をまるで『美女と野獣』のように純粋無垢に描写した監督ですが、本作における愛の形はその『美女と野獣』の逆張りにも見えます。
 檻に囚われるのは美女ではなく、野獣。美女が野獣を助ける。もちろん、運命のキスによって野獣がイケメンになるなんてことはありません。

 一雫の水滴と、一雫の水滴とが合わさり「一緒」の水滴になる。この繊細な描写、何より水中のハグは、『大アマゾンの半魚人』において、一生結ばれる事のない2人の心の距離を浮き彫りにした半魚人ギルマンと美女ケイとの並列泳ぎの対比として美しく心に刻まれます。
 ナショナリズム、トランプの時代。姿・形や信条など関係ない、愛を持った二人を阻む規則など存在してはならないと、この「愛」についての寓話は語りかけます。
茶一郎

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