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シェイプ・オブ・ウォーターのsoffieのレビュー・感想・評価

4.5
2018年公開
123分

ギレルモ・デル・トロ監督作品

オタク監督が脚本・監督を手掛けた
本気の現代の「おとぎ話」

この映画が公開された当初
とても見たかったのがHuluで配信が始まり鑑賞。

この「シェイプ・オブ・ウォーター」は

アカデミー賞・作品賞・監督賞
ヴェネツィア国際映画祭・金の獅子賞
全米映画批評家協会・作品賞
ロサンゼルス批評家協会・監督賞
放送映画批評家協会・監督賞
英国アカデミー賞・監督賞
ゴールデングローブ・監督賞

を受賞している。




「あのことについて語るなら

何を話そう?

あれはハンサムな王子の時代が終わりに

近付いた頃…

海には近いけれど他に何も無い田舎町

声を失った王女さま

…愛と喪失の物語」


映画はイライザのお隣に住む
画家ジャイルズの言葉と
水中を漂う幻想的な風景から始まる。

感想から言うと
とーーーーーーーーーっても良かった。
物凄ーーーーーーーく素敵な映画だった。

大人のおとぎ話なので色んなシーンがあったけど、もう私は大人なので驚かない。

この映画はマイノリティ、社会の中で常に差別される人々が主人公である。

まず主人公のイライザは独身の冴えない外見の女性、映画館の上のアパートに住み研究施設の掃除婦をしている
耳は聞こえるが声が出ず喋れない障害を抱えている。
朝起きてお風呂に入って(一人でマスターベーションをして)、お隣のジャイルズのために朝食を作りお弁当のゆで卵を茹でて、仕事に行く毎日。
もう若くもないし、美人でもない、喋れない事で男性からも無視されて生きている
テレビの映画の
「貴方は私がどんなにどんなに寂しいか分からない」
と言う台詞が空虚に流れる。

イライザには夢がある、
帰宅途中にある靴屋のウィンドーに飾ってある真っ赤なパンプス、
彼女は毎日それを眺めて通り過ぎる
女性なら一度は経験したことがある
「いつか好きな人が出来て、
デートする事があったら
あの靴を買って履いていこう」
と淡い夢を抱いている。

イライザのアパートのお隣にはもう中年も過ぎたゲイの画家ジャイルズが住んでいる(かつては広告代理店のエリート社員)、
アル中で職を失いポスターや挿絵などを描いて生活を立てている

イライザの同僚の黒人の掃除婦のゼルダは
「私は嘘が付けないの、
嘘を付くのは夫にだけ、
だって嘘は結婚生活を長続きさせるもの」という人生哲学を持っている
この肝っ玉な役をオクタヴィア・スペンサーが演じている、映画好きの人なら顔なじみの有名な女優さん

アメリカの軍の研究施設で働くホフステトラー博士は「ボブ」と呼ばれているが実は旧ソビエトのスパイ

イライザが働く研究施設の警備主任の
ストリックランドは秘書がいて個室まである役職だが、上司の元帥に頭が上がらず
「わたしのために成果を出したまえ」と言い続けるストレス中間管理職、
電流の流れる牛追い棒を振り回すドS野郎で、自分より目下の者は全てゴミ扱いしている

そしてイライザの運命を変える
研究施設に運び込まれた
南米の河に住み着き原住民から「神」と崇められていた異形の半魚人
彼はイライザの物静かで優しい態度に惹かれてイライザと意志の疎通をする
きっかけは「ゆで卵」をもらったこと。

私はこの映画を見て初めて
「あ、ゆで卵ってエロいな」と思った
真っ白でツヤツヤしていてプヨプヨしていて丸い…昔飼っていた亀にゆで卵の黄身を砕いてあげたことを思い出した。

イライザは意志の疎通が出来ると分かると
毎日、彼女を待っている半魚人のためにゆで卵を持って行く。
その時、イライザはあの赤いパンプスを履いている。
生まれて初めて自分を見て、自分を待っていてくれる優しい彼(半魚人)のために。
彼はイライザが喋れない事など気にしない、イライザの手話を覚えて意志を伝えようとしてくれる。

半魚人に名前は無い
この半魚人のお顔は亀っぽい
亀のつぶらな真っ黒な瞳を持つ彼は
身長が2m近くあり直立すると見惚れる程美しい体格をしている。

私は何を隠そう「骨格フェチ」である
この半魚人のオリンピックの水泳選手のような引き締まった美しい肢体
首から肩、背中から腰、形の良い臀部
そして長い手足に美しく巻きついた
ギリシャ神話の神のような筋肉。

水中生物なのでヌメヌメしていて
もしかしたら水辺の匂いがするかもしれないが
映画を見ている私には絶世の美男にしか見えなかった(性癖なんです、ごめんなさい)
主人公のイライザが半魚人に惚れてしまっても仕方ないと思うくらい美しい。
「神様」として崇められていたのだからもしかしたら何十年、何百年…(鶴は千年、亀は万年という言葉が日本にもある)と生きているのかもしれないが、そんな事は気にならない。

アメリカの研究施設に運び込まれ、残忍な警備主任に残酷に不当に扱われ、研究結果も出ていないのに「生体解剖」するのが一番手っ取り早い、と言われて解剖の日が迫る。
ロシアのスパイとして忍び込んでいたホフステトラー博士はそれを止めて研究資料をロシアに流そうとするが相手にされず、研究対象の半魚人に知性がある事を知るとイライザに協力して逃がしてしまう。

イライザの家のバスタブに匿われた半魚人は、興味本位で家の中を見て回ってジャイルズの飼い猫(パンドラ)にシオを吹かれて、猫を一匹頭から食べてしまう
(ギャー!)
今まで猫が殺される場面が出てきた映画はそこで嫌になってしまったのだが、なぜかこの映画では
「餌と間違えたのね、お腹すいてたのね」と許せた自分が怖かった…。

迫る追っ手、匿われて弱わる半魚人
彼を逃がすのは雨が降って桟橋の水門の水位が高くなる日

おとぎ話は一気にクライマックスに差し掛かり、雨の中イライザとジャイルズが半魚人を桟橋まで連れてくる事に成功するが…

悪の追ってはそれを許さない…。
果たして半魚人は無事に逃げる事が出来るのだろうか
そしてイライザと半魚人の惹かれ合った恋はどうなるのだろうか…?

最後まで見逃せないスリルとサスペンス。
グロいシーンも惨いシーンも出てくるが
全体に流れるノスタルジックな青緑の色合いと流れる音楽
白黒のテレビに映し出される古い映画の場面と台詞。


あなたの姿が無くても気配を感じる

貴方の愛が見える

愛に包まれて

私の心は優しく漂う…


最後に流れる詩はデル・トロ監督の作詩と聞いたが、この物語の主人公イライザの心を謳ったものだろうか、それとも半魚人の心を謳ったものだろうか。

この物語はハッピーエンドだったのだろうか?
ハッピーエンドのようにも思えるし
そうでないようにも思えるが、
そもそも実話では無くおとぎ話なのだから、気にすることなく信じたい事を信じることが許されている

ギレルモ・デル・トロ監督の
オタクでクリーチャーでマイノリティ万歳のメランコリーとロマンス満開の映画

123分の長さを全く感じなかった。

見終わった後もなんだかホンワリ〜した気分に浸れる映画。
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