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あゝ、荒野 後篇のNMのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
3.9
後篇。
前篇で膨らんだいくつかのストーリーが更に展開し近づいていく。

新次は職場でついに母キミヅカと口を聞く。
新次に責められて強がるような態度を取り、同期の健二は父を自死に追いやった男の息子だからねと告げる。
死んだ父は何やら長期間砂漠地帯に行っており帰国後ずっとうつ状態を発症していたらしい。どうも自衛隊で派遣され当時の上官だった健二の父に暴行を受けろくに治療も受けられなかったようだ。
キミヅカは夫に怒りを向けないとやっていけなかったのかもしれない。そして生活にとても疲れていた。
新次は冷たい目をしたまま立ち去る。雨の中を走って恋人のヨシコ宅に向かい、試合前で禁止されているにも関わらずセックスを始める。

その頃健二の父がキミヅカに面会したいと伝えてきた。
キミヅカは夫の仇である男に会うつもりはないが、新次にそのことを連絡した。
新次が行くと、当時逃走を図った新次の父を二週間拘束監禁しましたと告白。そして健二に自分ががんであることを伝えて欲しいと。
新次は自分で言えよと怒鳴り去る。

新次と健二、ヨシコは海へ遊びに来た。
ヨシコは被災者なので海には何か思うところがあるはず。
唯一の母との思い出である当時履いていた靴を海に捨て、三人で思い切り泳ぐ。
夕方までそこへ残っていると、靴は両足揃って浜辺に戻ってきていた。
ついに涙を流し、つらい気持ちを二人に見せるヨシコ。

新次の次の相手が山本裕二に決まった。決戦に向けて燃え苛立ちも見せる。

スポンサーである介護会社の社長がジムの家主である男を連れてきた。先代が好きだったジムだが若い二代目の彼は興味がなく立ち退かせるつもり。
二人が見学していると健二が良い練習試合を見せ、二代目はキラキラした目で健二を見つめる。
健二は前篇に比べ色んな人と出会い若干口数が増えてきたようにみえる。

健二が道を歩いていると待っていた二代目が食事に誘ってきた。すっかりファンらしく少年のように健二を慕っている。
そこで二代目は健二に、元日本チャンピオンを紹介しようと持ちかける。

新次はリュウキに会いに行き、出所以来初めて会話した。
リュウキは裕二を許した気持ちを語るが、新次は理解しない。
そのまま二人でいちゃいちゃしとけ、見とけよ俺殺すからなと言い放つ。
またヨシコの留守中家に駆け込み、一人で呆然と過ごしたあと帰っていった。

二木は面倒を見てくれていた高校生を遣い息子健二を呼び出した。
その高校生がもう面倒を見きれなくなったから。
二木は健二に自分の住む場所を用意しろと変わらぬ悪態をついた。
健二ははじめて父に言い返し、話を断った。

新次が試合を控えているにも関わらず、健二はスパーリングを希望した。
するとついに腹の決まった健二は目を見開いて殴り合い、新次と互角の戦いを見せた。
その夜健二は泣きながら新次に別れの手紙を書く。

新次の試合の日。健二は部屋に来ずこっそり観客席から見ていた。
裕二は大人気でみんなに応援されている。裕二の妻やリュウキも観戦に来た。
試合は裕二が押す。
新次は汚いプレーを連発し怒らせ、裕二も頭に血が登り、喧嘩のような試合になる。
殴り合いの結果判定勝ち。
帰っていく裕二はリュウキに声をかけられ思わず涙ぐんだ。それを見つめる新次。

控室に戻った新次が再び健二の行方を聞くと、昼間のうちに辞めたと聞かされた。
健二は新次に憧れ後を追ってきたが、だからこそずっと新次と戦いたいと思っていた。
ジムを移ることは誰にも相談せず決めた。

いつものように新次がヨシコを尋ねると部屋はもぬけの殻だった。バイト先も辞めていた。思い出の靴は捨て置かれている。
その母親は娘を探して新宿まで来ており、堀口と恋人関係になっていた。
新次のお陰で辞められた売春もまた始めてしまった。

二代目に健二を引き抜かれたジムはもう用なし。介護会社も経営が厳しく、お手上げの堀口は新次に廃業を告げ、新次は涙を流す。
健二は強くなり順調に試合を勝ち進めていった。

だが健二が戦いたいのはあくまで新次。二代目が話を堀口に通してきた。
健二と新次の試合。それを最後にジムは閉鎖、社長はその日に夜逃げ予定。
新次は試合を受けた。

決戦の日。
健二のパンチはとても重くガードも固い。弱腰を克服した今とても強い。
新次は追い込まれるが、何とか巻き返し死闘を繰り広げる二人。
ついに健二のガードが下がり何十発も連続で打ち込まれるがそれでも倒れない。みな圧倒され固唾をのむ。
二代目は思わずタオルを投げようとしたが社長に止められる。社長はゴングのハンマーまで抱きしめ、最後までやらせろと叫ぶ。
倒れた健二にみなが駆け寄るが、新次はまだファイティングポーズを取り、意識を取り戻した健二も立ち上がりまた殴られ続ける。
健二はただ自分ここに立っていること、ここに生きていることを宣言し、愛する人たちがみんな去って行かないで欲しいと訴えたかった。特に新次に。
一方新次は相手を憎むこと、勝つこと、運を掴むことだけを追求したようだ。健二は繋がることを求めてボクシングをし、新次はそれを拒否した。

終わってみると短い生涯を全力で生きた健二の人生は意義深いものだったように感じた。特に後篇では健二にやや強く焦点が当たっている。
新次のその後は語られないので分からない。
ヨシコと母も邂逅するのかと思いきやすれ違ったままなのもリアル。現実はそう奇跡ばかり起きない。
キミヅカや二木が息子たちと和解する様子も結局なかった。別に物足りなさは感じない。話がもりだくさんなので一部はさらっと引いてメリハリをつけるものなのだろうか。ただ観客としては二人ともどこかで子どものことを気にしている様子を感じる。キミヅカはそれが時々示されていた。一度許されないほどの裏切りをしても、親なのでいざとなると咄嗟に応援してしまうというのはわかる。だが自分でも許されないことを分かっているので謝ることができない。
結構みんなめちゃくちゃな行動を取るので、時々バランスを取るためかもしれない。一辺倒に全員常時破天荒より深みが出るのかも。

ヨシコも気になる。自身が言ったように、彼女は自分に価値を感じておらず、幸せになる資格がないと考えたのかもしれない。
もしくはこれ以上新次と一緒にいることは危険と察知したか、愛しすぎて失うのが怖くなったか、夢を追う新次に私は相応しくないと感じていたのか、真相はわからない。

健二とケイコも結局何もなかった。男女のことはそう簡単にはいかないか。
恐らくジムも廃業して新次も普通の暮らしをしていったのでは。
平和な人生ではなかった人たちのある激動の時期。

前篇からフィーチャーされていた、相手を憎んだ方が勝つ、というセオリー。これが最後まで通底していた。

冷たいビジネスマンに見えた二代目が実は子どものような性格だったことが面白かった。
あと変態社長もトレーナー馬場さんもいい人だった。あまり心理描写がなかっただけにふとした行動が印象的だった。
夜、ジムの数カ所しかないスポットライトが当たる様子はとてもドラマティック。自問じていることがよく伝わる。

色々と盛り込まれ前後篇ある大作だが、それでもまだまだ掘り下げたくなってしまう。あの時あの人はどういう心理だったのか全員分聞きたい。
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