茶一郎

マイティ・ソー バトルロイヤルの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.3
 どけい!どけい!こちとら雷様マイティ・ソーのお通りじゃい!宇宙ねぶた祭はアズガルドの滅亡によって幕を開けます。そんなお祭騒ぎな一本『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、故郷アズガルドが危機的状況にでもならない限り単独映画が作られない北欧神話の雷様マイティ・ソーのシリーズ3作目。

 やはりと言うべきか、今作の発端もソーお決まりの「アズガルド滅亡」。しかし今作の敵は氷の巨人でも、ダーク・エルフでもなく、それらを遥かに凌駕するソーのお姉様である死の神ヘラ。「ちょっとこんなに強い敵どうやって倒すの?」という絶望的な序盤、それもそのはず今作『マイティ・ソー バトルロイヤル』の原題は『ラグナロク』、つまり今作における絶望・危機的状況は「神々の黄昏」であり「世界の終末」なのであります。
 しかしながら今作『マイティ・ソー/ラグナロク』、恐ろしく深刻な事態を「あ、そんなにピンチなんすか?」と鼻クソでもほじりながら軽妙な語り口で見せるというのが今作の飛び抜けた魅力であり、それ故に今作はお祭映画。今作を見ればきっと、海外レビューが「fun」というワードで埋め尽くされ、Rotten tomatoesがマーベル映画史上最も高い評価を叩き出した理由が分かるはず。

 「楽しい」、「頭カラッポなお祭騒ぎ」、「コミカル」という3点着地。その今作の監督に抜擢されたのはニュージランドのコメディアンでもあるタイカ・ワイティティ監督。
 長編デビュー作『イーグルvsシャーク』から今作にも通じるような悲劇的な状況とコミカルな喜劇を織り交ぜ語る手腕を見せつけ、特に近作、人間とヴァンパイアという異種族のシェアハウス生活をコミカルに描いた『シェア・ハウス・ウィズ・ヴァンパイア』、また不良少年と頑固親父という(これまた)異人種が森の中をサバイブする『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』と、異人種の間で生まれる男の友情の物語は今作のマイティ・ソーとハルクの友情の物語と重なります。そもそもタイカ・ワイティティ監督は「他のマーベル映画を見ていない」と意気込み、今作を「ジョン・カーペンター監督『ゴースト・ハンターズ』を元にして作った」と豪語していました。

 そんな彼の今作における語り口は、序盤から前作『マイティ・ソー ダーク・ワールド』の最も感動的だった場面をコミカルな劇中演劇として切り捨てた挙句に、『ロミオとジュリエット』的ラブ・ロマンス色が強かった前作までの『マイティ・ソー』の物語を極彩色の宇宙劇として再構築します。
 クリス・フォス的デザインは、どこか『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』を思い起こしますが、今作はスペース・オペラというよりスペース・アクション。箱庭的な完全に色使いが統一された宇宙においてザック・スナイダー作品を思わせるスローモーションでアクションを止める演出を用い、アクションシークエンスではキメ画が詰まった曼荼羅のような目に幸せな映像を連発してくれました。

 何より、今作の物語はソーにとっての強さの象徴である「ハンマー」を失った男が再び、アズガルドの真の王になるまでの物語、と、これは紛れもなくソーシリーズ一作目『マイティ・ソー』と同じ物語。今作『マイティ・ソー/ラグナロク』が一作目と同様の構図のヒーロー・ソーの成長譚を再び語ってみせることで、これほどなく「ソー三部作」を美しく締めることができたのではないかと思います。
茶一郎

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