亘

あの人に逢えるまでの亘のネタバレレビュー・内容・結末

あの人に逢えるまで(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【止まった時間】
ヨニは、毎日規則正しい生活を送りながら夫ミヌの帰りを待っていた。そんなある日彼女の元を役所の職員が訪れ平壌にミヌに会いに行くことを提案する。

韓国と北朝鮮、南北に分断された夫婦を描いた短編映画。28分ながら伏線や見せ方によってヨニの想いや奪われた時間を強く感じられる良作。

今作最大の見せ場は、ヨニの見た目の変化だろう。序盤は若い女性の見た目だけど、どこか違和感がある。1人暮らしの若い女性が大きめの一軒家に暮らし男性用の革靴やスーツの手入れをするのは「夫の帰りを待っている」で少し説明はできる。でもそのスーツが古いデザインだったり、毎朝記憶をなくさないように薬を飲まないとだったり、さらに財布やメモ帳は時代遅れなデザインだったりする。しかもダンス教室ではお年寄りに囲まれ、年寄り向けのセラピーのようなものも受ける。

序盤でもなんとなく感づくことはできるが、ヨニは実際はおばあさんなのだ。そして若い女性の姿は、ミヌと別れた時のヨニの姿、つまり彼女の認識している年齢といえるかもしれない。彼女の中での時間は数十年前のまま止まっているのだ。

そんな最大の事実については、あらすじやヨニの持ち物から感づくこともできるが、その老婆のヨニの姿の見せ方がうまいと思う。夫ミヌの名と86歳という年齢が書かれた書類、それからサラとの電話を通して「現実」に直面してヨニの「現実の姿」を見せる。そこから老婆の姿で話を進めることでヨニの時間がまた動き出したようにも見える。

ただ会えないことになって、また若い女性の姿に戻ったりする。この時のそれぞれの姿は、[若い女性の姿=ヨニ目線]、[老婆の姿=周囲目線]なのかもしれない。結局ヨニと見ぬは再会できないままなのだけれども、その後のヨニの家を長回しで写すショットやラストの家の前での坂道でのシーンは、ヨニがいかに長い間待っていたかを映していて切なかった。

作中のラジオ放送でもあったけど、南北離散家族は皆高齢化し、ヨニも認知症を患っている。きっとヨニは一生若い女性の姿のままなのだろう。

印象に残ったシーン:ヨニがスープを渡そうとするシーン。ヨニがミヌを見送るシーン。
亘