茶一郎

ヴェノムの茶一郎のレビュー・感想・評価

ヴェノム(2018年製作の映画)
3.8
 「好きなシーンは全部カットされた」と主演のトム・ハーディが語ったり、ワールドプレミアでは「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が始まる前の時代から漏れ出たような作品だ」と感想が漏れ出たりと、本作『ヴェノム』は観る前から非常に不安な作品でした。しかしながら観た感想としては面白い!「コメディアン」トム・ハーディのコメディ映画として面白い!一本でした。

 と言うのも、この『ヴェノム』の監督に起用されたのは傑作ゾンビコメディ『ゾンビランド』でデビューしたルーベン・フライシャー。またその監督が参考にしたのはホラー・コメディ『狼男アメリカン』(こちら体が突然変異してしまうヘタレ男のお話)ですから、本作もコメディになって当然。
 正直、この『ヴェノム』で面白いのはヒーローとしてのヴェノムが活躍しているシーンではなく、トム・ハーディの一人二役演技・ヴェノムとエディの漫才であり、突然、人間が食べたくて食べたくてたまらない体になってしまったヘタレダメ男の困惑描写(トム・ハーディが子犬の鳴き声みたいな叫び声を出す)でした。

 またルーベン・フライシャーのフィルモ・グラフィを眺めてからこの『ヴェノム』を見返すと、どうしたって本作はダークヒーロー誕生譚というより、ブロマンス的バディムービーとしての色の強さを感じてしまう。
 『ゾンビランド』はヘタレ男(ジェシー・アイゼンバーグ)とワイルドだがちょっとダメ男タラハシーとのバディムービー。『ピザボーイ 史上最凶のご注文』もジェシー・アイゼンバーグ扮するヘタレ男と友人のダメ男のバディ・クライムアクション。お次の『L.A. ギャングストーリー』はまさに男同士の自警組織を作る実録犯罪映画で、リーダーであるジョシュ・ブローリン演じる巡査部長は家庭を疎かにする典型的なダメ男で、ライアン・ゴズリング演じる巡査部長は権力に屈するクズ男として登場しました。
 
 やはりこの『ヴェノム』がルーベン・フライシャーの映画の範囲にある以上、負け犬同士が共鳴するダメ男のバディムービーでありコメディ以外のものではありません。そのためブロマンス以上の物を描こうとする、ラストの無理なヒーロー展開、急にヴェノムの心が変わる展開は蛇足であり、どうせならトム・ハーディがレストランの水槽に入るようなコメディ展開がもう一つでも二つでもあったら良かったのにと思うのです。
 続編はカーネイジなんて相手にしないで、ヴェノムとエディの関係が恋愛に発展してしまう……なんてどうですかね。ダメですよね。
茶一郎

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