ベルサイユ製麺

ナチュラルウーマンのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ナチュラルウーマン(2017年製作の映画)
3.7
なんとなく90年代辺りのポートレイト風のジャケ写と、やはり90〜00年代にファッションビルに入っていた女性向けブランドっぽいタイトル。パッケージから漂うポジティブでシャレたムードに惑わされてはいけない!コレは超弩級のストレスを搭載した、まるで手負いのラーテルみたいな=危険極まりない映画だ!

初老の紳士オルランドはテキスタイルメーカーの社長。その夜も、二〜三回り年下のパートナーのマリーナとディナーを楽しみ、愛を確かめ合った、その後で…。
就寝中に身体の異変を訴えたオルランド。激しい頭痛によろめき階段から落下する程。マリーナに付き添われ病院に向かうが、そのまま還らぬ人になる。
その突然の別れに最も心を痛めているであろうマリーナに対して、“常識的”な世間の仕打ちは想像を絶するものだった…。

マリーナはトランスジェンダーで、本当に悔しい事ですが、そのせいで世間的な信用が充分に無い。それどころか彼女に無根拠な嫌悪感を持つ者も居る。ちくしょう。
死亡時一緒に居ただけで事件性を疑われ、あろうことかオルランド自身にも疑惑の目が向けられる瞬間も…。オルランドの家族達は(止む無く)怒りや、侮蔑の言葉を容赦なくマリーナにぶつけ、オルランドの痕跡から追い立てようとする…。

もう本当に酷い。警察の応対も、オルランドの家族の振る舞いも。叩きやすい生贄を目の前にした時、人間はどうしてこうも残酷になれるのか。作中たまたま(?)国家権力や資産家一家が悪役(?)になっていた訳ですが、この傾向って別段権力者特有って訳でも無いと思います。弱い立場の者が、もっと弱い立場の者を叩く様子を私たちは日常的に目にしていますよね。ずーっと前から。
それで、酷い仕打ちに有ったマリーナの姿が非常に印象的でして、彼女は何故か理屈で返さない。言い訳に聞こえる様な事を言わないし、取り繕う様な素振りも見せない。ただ堂々と、自分がしたい様にするだけ。もうその姿のなんと美しい事か…。だから個人的には邦題の『ナチュラル・ウーマン』より原題の『A Fantastic Woman』が相応しく思えたし、私達が学ぶべき事が多く有ると思いましたね。…そっすね、酷い事言う奴に酷い事言い返しても最悪の泥沼ですものな。
マリーナ役のダニエラ・ヴェガがとにかく素晴らしい。あの瞳の力強さが有れば、どんな理屈も語彙も筋力も要らない。全てが伝わります。
そしてそれを捉える南米映画特有の撮影の的確さ。湿度や匂いまで伝わってくるようです。心象とシームレスに繋がる演出も素晴らしい!
ラスト、更に強く美しくなってしまうマリーナの姿には、(本当に酷く安直な言い回しで申し訳ないのですが!)…勇気を貰った!←ほら酷い



因みに、自分でも完全に的外れだと思っているのですが…
マリーナの受けている仕打ちは、女性が日常的に味わっている苦痛なんだぞ?分かってるか?オス供よ。と言われてるような気分になったりしたのでした…。日本みたいな発展途上国(後退国?)だともっと酷いかも。全てのオスに成り代わって勝手に悔い改めます。