カルダモン

鹿の一年のカルダモンのレビュー・感想・評価

鹿の一年(1995年製作の映画)
4.4
たった5分間のアニメーションにもかかわらず、物語の展開と顛末が素晴らしくスムーズでリズミカル。

獰猛な犬と臆病な鹿。どうしても鹿に噛み付いてしまう犬は、噛みつくたびに飼い主に棒で打たれる。何度も何度も繰り返すうちにやがて二匹は次第に心を通わせあう。面白いのは絵のタッチを微妙に変化させることによって(おそらく画材を絵の具からパステルに変えている)心が通っていることを伝える表現だった。この表現が衝撃のオチにも上手く作用しており、唖然とした。また飼い主の顔は描かずに、あくまで鹿と犬のみに絞っているのも寓話性を際立たせている。


スイスのアニメ作家ジョルジュ・シュヴィツゲベル(最近やっと名前を言えるようになった)で特徴的なのは大きく三点。色の塗りとダイナミックなカメラワーク、そして音楽の使い方。どの作品も言葉はないものの、目と耳を十分に刺激してくれる。グリグリと視点を移動し、ベッタリとした色の中を泳ぎ回る感覚。サウンドデザインとアニメーションがリンクしているのも楽しい。

この短編には原作があり、中国の柳宗元(773〜819年)が書いた寓話『臨江之麋』(りんこうのしか)がベースとなっているようです。物語は以下の通り。

🦌臨江という所で狩人が鹿を捕まえた。
家に連れて帰ると犬がよだれを垂らして寄って来るので狩人は犬を叱り、毎日鹿を抱いて犬に見せて仲良く遊ぶように訓練した。やがて犬は鹿を見ても涎を垂らして噛みつくようなことはせず、鹿は自分が鹿であることを忘れて、犬を友達と思うようになりじゃれあって遊んだ。犬は主人を恐れて鹿と一緒に遊んでいたが、時には舌なめずりをしていた。三年後、鹿が門から出ると野犬が沢山いるのを見つけて一緒に遊ぼうと駆けていった。野犬はそれを見て喜々として吠え、鹿を食い殺した。しかし野犬には当然のことだった。鹿は死んでもそれを悟ることがなかった🐕




余談
先日、念願のDVD作品集を入手しました。ネットを駆使すればこの作家の作品をいくつも見ることはできるのですが、私はどうしても手元に置きたかった。色々検索した結果、都内で販売しているお店を発見。そこはアニメ作家山村浩二のスタジオ兼ギャラリーの『au-praxinoscope』というところで、オンラインショップもやっておりました。私は実際にそのお店を訪ねてみたくて、毎週金土しかオープンしていない実店舗を目指して自由が丘まで足を運びました。とてもこじんまりとした素敵なギャラリーで心が躍りました。
ジョルジュのDVDは2種類リリースされており、GDS盤(スイス)とNFB盤(カナダ)があるのですが、全作品網羅されているのGDS盤を購入。なんだか帰り道が嬉しくなるような買い物は久々な気がしました。