umisodachi

ブレス しあわせの呼吸のumisodachiのレビュー・感想・評価

ブレス しあわせの呼吸(2017年製作の映画)
3.6
実話を映画化した作品。泣いた泣いた。

若い夫婦ロビンとダイアナは、妊娠も分かり幸せの絶頂にいた。しかし、そんなある日ロビンを不運が襲う。ポリオウイルスに感染し、首から下が麻痺して人工呼吸器がないと生活できない状態になってしまったのだ。余命数か月と告げられ絶望した夫婦だったが、このまま病院にはいたくないと自宅療養を決意する。少しずつ元気を取り戻したロビンは、呼吸器つきの車椅子というアイデアを思いつき……。

正直、色々と粗が目立つ作品ではある。人間関係がよくわからなかったり、どうやって生計を立てているのかが不明だったり(資産家なの?そのわりに両親が全く出てこなかったけど…)、いつのまにかいなくなるキャラがいたり。アンドリュー・ガーフィールドは重度障碍者の役を好演しているが、『博士と彼女のセオリー』のエディ・レッドメインと比較すると、単調な役作りではある。というのも、本作の登場人物たちは人格的に一点の曇りもなく、。『博士と~』のような複雑な人間性が描かれていないからだ。

演出的にも、特に「ほほう」と思うシーンもなく、淡々とストーリーが進んでいく。もちろん、ストーリー自体がかなりドラマチックなので全く退屈はしないものの、映画として新しさやユニークさがあるかと言われれば、特にない。

でも、この作品は……素晴らしい。主人公の実際の息子がプロデューサーだという点が全てなのだが、息子の目から見た完璧な父母とその人生を、全キャストと全スタッフが全力で肯定しているのだ。カッコよさとか、新しさとか、そういった要素を捨てて、【つくるべきものをつくるんだ】という信念の元に作られた作品だと強く感じた。

『ブレス しあわせの呼吸』には、圧倒的にポジティブな空気が充満している。人生は素晴らしく、愛は絶対的なパワーを持ち、すべての人間の尊厳は尊重されなければならない。奇跡のような人生の一部始終を実際に目の当たりにした人間が、多くの人の心を動かして映画にしたのだ。そして、その映画を遠く離れた日本で私が観ている。完璧なる人生賛歌に、感動の涙が止まらなかった。基本的には陰鬱とした作品や、ひねった作品が好きなのだが、ここまで真っすぐな作品に出会ってしまったら、感動せずにはいられない。

ちなみに、本作にうっすらあるモチーフとしては、PARTYが挙げられるのかなと思う。多くの善良な人々と、心からの信頼関係で結ばれた主人公。彼の人生そのものが賑やかで温かく希望に満ちたパーティのように描かれているし、実際にパーティのシーンがいくつか出てくる。その中でも、スペイン旅行のくだりは秀逸。スクリーンの中にあんなにも幸せな光景を見たのは、初めてだったかもしれない。
umisodachi

umisodachi