えむえすぷらす

金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

5.0
関東大震災での朝鮮人虐殺事案の裏であった奇怪な金子文子と朴烈夫妻の大逆事件(爆弾による皇太子暗殺未遂とされたがでっち上げだった)の予審から本裁判とそのあとの出来事を描いた作品。

関東大震災で起きた虐殺は凄惨。そういう悲劇的な物語として描かれたのかというと実は文子と朴烈夫妻が逮捕拘留されてからコミカルな要素が入り始める。この事件、予審判事は皇室に対する大逆罪(量刑は死刑のみ)で起訴を狙っていて都合のいい自供を得るために随分と二人の要望に応じているし、本裁判に入る際も条件闘争をやるなど一筋縄ではいかない。
対する判事ら日本側の官僚は思想的に凝り固まっていて、そこを二人が茶化したり時に激烈に告発をする。そんな展開になっていくので暗くはないし、予審判事の立松懐清や刑務官たちは文子の境遇など初めて真剣に考えて共感するようにもなる。

裁判の結果を日本政府側が耐えかねて皇室を動かして政治的に解決した後、ある悲劇が起きる。でもその後に奇妙な事件が起きて暗いままでは終わらない。概ね何かしらの史実から一つの見方を提示している。
これをどう捉えるかは文献など調べないと確たる思いは抱けないであろう(ちなみに写真騒動や韓服の一件は史実通りです)。

キャスト、文子役のチェ・ヒソさんが素晴らしい。いろんな表情で作品を支配していて魅力的でした。