茶一郎

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法の茶一郎のレビュー・感想・評価

4.6
 フロリダ、夢の王国「ディズニー・ワールド」のお隣にある安モーテルに住む人々に魔法をかける映画『フロリダ・プロジェクト』。本作『フロリダ・プロジェクト』は、夢も希望もない悲痛な現実を力強く生きていく6歳のムーニーと母親ヘンリーの何気ない日常をとてつもない美しさで描いていきます。

 物語は一見すると淡白でミニマム、しかし舞台背景、エフェクトによる映像美、子供の笑顔、画面に映るもの一つ一つが美しく、目を離す事ができませんでした。
 特に主人公のムーニーを筆頭とする子供が映画を引っ張ります。ショーン・ベイカー監督は是枝裕和監督作『誰も知らない』に非常に影響を受けたそうですが、ベイカー監督の子役の演技演出はその是枝裕和監督の手腕に匹敵するものではないかと思うほどに素晴らしいです。
 加えて最高のモーテルの管理人を演じたボビー扮するウィレル・デフォー。グリーン・ゴブリンまた『ワイルド・アット・ハート』でパンストを被っていた彼の本作における役割は、何も知らない子供たちが置かれた悲痛な現実を、せめてもの僅かな魔法にかける子供たちの守り人。ボビーの安モーテルをカラフルなペンキで隠していくアクションが、ボビーそのもののキャラクターを表していました。

 何より言及せざるを得ないのは宣伝で謳われるれている「マジカルエンド」「ラスト85秒」の衝撃です。全編35mmカメラから唐突なゲリラ撮影、ハッピーエンドであると同時に、バッドエンドとも思えるこのラスト。私は『大人は判ってくれない』のラストを想起し、もし『大人は判ってくれない』の主人公ドワネルが海で引き返さなかったら本作のラストのようになっていたのかもしれないと思いました。現実に本作のような厳しい現実があるのなら、せめて映画だけでも彼らに魔法をかけてもいいのかと。

 最高に美しい魔法の映画です。今やMARVEL、スター・ウォーズ、20世紀フォックス、全てを手に入れ全世界の映画興行収入ランキングを魔法で支配しているディズニー、まさにそのディズニーの影に隠れてしまいそうなこの小作品『フロリダ・プロジェクト』が、映画の魔法を最大限に起こしてくれるのです。
茶一郎

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