きゅうでん

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のきゅうでんのレビュー・感想・評価

4.5
この映画では、ものごとを良し悪しで判定しない態度が一貫している。
貧困について、ただかわいそうなもの、邪悪なものとして描かない。特に子供から見れば、貧困なんて関係なく世界は輝いている。でも、貧困による悲劇は淡々と、確実に、起こっていく。
ヘイリーについてもそうだ。虐待はもちろんのこと、子をコントロールしようなんて一切しない。ムーニーをひとりの対等な人間として扱う。ムーニーはそんなヘイリーに育てられたからこそ「個」を持っており、世界がビビットに輝いて見えるのだろう。でも、そんなヘイリーの態度が、ムーニーのいきすぎた遊び、さらに児童家庭局の介入を招くことになる。
彼女の教育は、「良い」とか「悪い」とかではないのだ。

一面性の徹底排除によって、ラストのムーニーの”夢の国”への小さな逃避行という非常に短いシーンに、いっそう深みが出る。
この心地良いクライマックスが長々と続かないのもまた現実的で、この手の題材にありがちな”感動ポルノ”になっていない。

ただ一つあえて良し悪しを”判定”させてもらいたいのが、この邦題である。この映画で描かれているものは、「真夏の魔法」なんて薄っぺらい表現で言い表すことのできるものではないとおもう。(というかそもそも、意味がわからない…)