きゅうでん

ドライブ・マイ・カーのきゅうでんのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5
翻案・脚色とはかくあるべし。
村上春樹の短編集『女のいない男たち』から3編が引用されている。
(『ドライブ・マイ・カー』、『シェエラザード』、『木野』)

「補聴器で強調されたような静けさ」
北海道に到着して家福が目覚めた時に運転の音がスッとなくなる演出があり、そのシーンではこの映画がかかっているような狭い劇場だと完全な無音ではなく空調の音が聴こえてくる。
これは観客が「劇場を意識する=映画を映画として見ていることに気づく」ことと、テーマとして家福が「”傷つくべき時に傷つかなかった”という反省=現実を現実として生きること」ことが一致している。
劇中劇のシーンでも観客席をうつしたカットがあるように、この映画もまた観客が観ている作りものであることを意識させられる。この映画が終わった後、自分を引きずり出すのは観客自身なのである。
家福が妻の不倫を知りながらも波風立てずに過ごしてきたという「現実のバーチャル感」が、西島秀俊という「イケオジ」的なパブリックイメージとの相違に生きてきた俳優と合致する瞬間。こういうのを撮るのが本当にうまい。

映画の演出と内容が一致してるときの快感って、本当にすごいですよね。