きゅうでん

エターナルズのきゅうでんのレビュー・感想・評価

エターナルズ(2021年製作の映画)
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ファストスについて書く。
彼の同性愛に関してポリコレ云々言われているが、人口増加と文明発展の連鎖に絶望したから「子供を産めない関係」に生きるようになった、というのはとても説得力のある描写だと思う。異性愛者として描くことの方がむしろ「意図も意味もない設定」である。(もちろん「理由なく同性愛者が出てきても別にいいじゃん」という前提の上でのプラスアルファの話である。)
彼の子供はおそらく養子で、「苦痛を感じることのできる存在をこれから産むべきではないが、すでに産まれた存在は幸せになるべきである」というベネターの”倫理的な反出生主義”のような考え方が、上記の設定に反映されている。そしてそれは「地球人類を救ったらティアマットが生まれずその後産まれるはずだった生命がなくなること」をどう捉えるかという大テーマにもつながっている。これは、サノスの”指パッチン”の何が駄目だったかを考える上でも重要な思想である。
(例えば、もし“指パッチン”の効果で生命体の出生率を落とし、宇宙の人口を段階的に引き下げます、だったら、サノスは憎悪を一挙に引き受ける大ヴィランたり得ただろうか?)

以下、残念な点を3点。
まず、広島のシーンがあまりにも雑すぎること。ディズニー資本で原爆投下を「人類の明確な過ち」として描いたこと自体を評価する声は多く、私もそれには同意する。しかし、それにしてもCGでつくられた黒焦げの街を引きで撮る画がリアリティゼロで、馬鹿にしてるのかと言いたくなる。1945年の広島を、メソポタミアやバビロンと同じノリで描くな。こんな中途半端な描写をするくらいなら、きのこ雲→他国にいるファストスが状況を知ってリアクション、でごまかしてくれた方がまだマシ。
2つ目はディヴィアンツの扱い。ゲースロS8のホワイトウォーカーの扱いを思い出した。せっかく良いテーマを背負った存在なのに……彼らを丁寧に描くには時間が足りなかったのだろうか。
3つ目は編集がダイジェストっぽいこと。画面上では常に何かが起こっており、テレビシリーズの再編集版のような違和感がある。ただ、たった2時間40分であれだけの人間関係や展開をすんなり把握できるつくりが可能なのは、驚異的な技術とも言える。

賛否問わずいろいろな切り口で語ることができるという点で、MCU随一の強度(つまり、高い完成度と明確な価値観)をほこる映画だと思う。