きゅうでん

もう終わりにしよう。のきゅうでんのレビュー・感想・評価

もう終わりにしよう。(2020年製作の映画)
4.0
老人のエヴァンゲリオン。

教養あるジェイクにとって、『オクラホマ!』のように古い価値観の蔓延した世の中は生きづらかった。彼はずっと自分の居場所を見つけられなかったのだろう。アイスクリーム屋での出来事からも、地元コミュニティでの彼の立場を察することができる。
(いや、おそらくここは因果性が逆で、彼はその価値観に馴染めなかったからこそ教養を身につけたのだろう。)
そんな彼の作り上げた”young woman”は、おそらく彼の理想の彼女であり、理想の彼自身でもある。
彼女は彼の読んだ詩を詠み、彼の好きな画家の絵を描く。
それなのに、(自分で作り上げはずの)彼女は彼との別れを考えている。
創造主たる彼には、現代的な感覚を持つ(両親から“物理学者は女性少ないでしょ”と言われた時の嫌悪感、古い恋愛ソングをレイプソング扱いする、など)”理想”のはずの彼女と恋愛する自信もないのである。
そんな彼女との恋の行方は、結局のところ古くも美しい『オクラホマ!』で終わる。

いわゆる『旧エヴァ』では、他者肯定で得られる境界の中に自己を定義し居場所を見つけること、つまり「内」から「外」への転換が思春期の終わりと結びつけられていた。
今作は、教養として得られる”新しい”価値観と、居場所を見つけられないながらも本当はずっと憧れてきた”古い”価値観、どちらで人生を定義するか、そういう決断が語られる。
そして、古い方を選び取る決断、つまり「外」から「内」への回帰が老年期の終わり(=死)なのである。

自分が人生をかけて否定し続けた価値観を、最期には受け入れる。その光景は滑稽な死であり、同時に美しい演劇でもある。
おそらくは、ずっとメジャー作品を横目に見つつ理解し難い作品を作り続けているチャーリーカウフマン自身の芸術論、または人生論なのだと思う。