けんたろう

朗かに歩めのけんたろうのレビュー・感想・評価

朗かに歩め(1930年製作の映画)
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真面目な男が一番格好いゝおはなし。


前半が余まりにもダサい。然うして腹が立つほど詰まらない。

成るほど、笑ひを起こさんとする場面は在る。彼れらの揃うた動きは、屹度可笑しきものであるとも思ふ。然し変な箇所で其れを遣らるゝ為め、催すのは、寧ろ不快感である。
加へて、其の鼻持ちならぬキザぶりよ。成るほど現代と過去とでは形式こそ異なるが、然し其の実態(精神?)は一緒である。詰まるところ、斯ういふ異性に媚びたやうなキザは、ダサいのだ。嗚呼、反吐の出る詰まらなさである。
然うして、ドラマが亦たヌルい。飽き飽きしてしまふ出来である。嗚呼、もう観たくない。観たくない。嗚呼、もう観たくない! オイラ、もう観たくない! 神様あ! オイラ、もう観たくないよお!!!

──矢張り、天に向かつて泣き叫んでみるものである。

いやまあ、願ひこそ叶ひはしなかつたんだけれども。然し中盤からの展開が、先ほどとは打つて変はつて、妙に面白いんである! 全く予想のできぬうへに、決して此方を置き去りにはせぬ映像。嗚呼、魅力といふ名の引力に、最早や我が身も云ふこと聞かず、気が附きや画面釘付けである。
まあ詰まるところ、キヤラクタやら何んやらが、総べて生きてゐるんである。兄貴と弟分の固い絆も、真面目に働く二人の健気さも、やす江さん一家の温かさも、とかく其処には何んらの偽りも無いんである。然うして其れら総べてが堪らないんである!
又た、帽子やタイプライタアなどの手先のショットで出勤退勤を見するなど、秀逸な表現も素晴らし。たゞ一言、脱帽である。
コミカルなのも亦た好い。屹度前半と同んなじやうな物なんだらうけれども、然し私しには丸で異なるやう思はる。

嗚呼、そして最後に見ゆる此のタイトルの何んと麗しきことよ! 若しや、前半のひどく格好わるき表現は、実は彼れらの罪悪がゆゑだつたんかしらん。果たして、真面目なる男こそが、即ち晴れ晴れたる男こそが格好いゝんだと云うてゐるかの如くである。
とかく、総べてが素晴らしい! 此の際、ご都合主義だ何んだといふものは、どつかの便所にでも放つてしまはう。然うして歩まん! 清らかなる心で歩まん!
──嗚呼、至極朗らかなり。