鋼鉄隊長

スリー・ビルボードの鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.0
TOHOシネマズ梅田にて鑑賞。

【あらすじ】
ある日、片田舎の寂れた道路に3枚の看板が立てられる。それは娘を殺人事件で失ったミルドレッドが、捜査が進まない警察へ送った怒りのメッセージだった…。

 「映画は冒頭20分で物語が動く。だから、20分観て面白くなかったら、最後まで観てもつまらない」という話をどこかで聞いたことがある。
 その考えに従えば、この作品は「つまらない映画」と言える。実際に冒頭を観た限りでは、正直面白くない。まず第一に話がわからない。そして誰にも共感できない。この原因は、物語の核である「娘が殺された」という背景が描かれていないことにある。なので「あ、これはハズレやな」と、早々に観る気を失っていた。
 しかしこの気持ちは、ある人物が登場することで変化する。それは太った歯医者の男だ。この男は看板が建てられたことに腹を立て、陰湿な嫌がらせをする嫌な脇役である。彼にとって殺人事件は他人事。これは事件の詳細を見せられていない観客にとっても同じことだ。したがって、看板を建てることへの意見は漠然としている。この場合、歯医者も観客も、態度の悪いミルドレッドの様子を目の当たりにしているので、自然と彼女に腹が立つ。この「最も観客に近い人物」はその後、署長の「歯医者のことなんてどうでもいい」という一言で片付けられる。それはつまり、この作品を主要人物に感情移入して観るのは間違いだというメッセージと読むことができる。
 それからは完全に野次馬目線に。そうすると中々面白い。目には目を、歯には歯を。暴力には更なる暴力を。過激化する様子を、ワイドショーでも観るような感覚で楽しむ。すると恐ろしいことに、人が死のうとも、病院送りになろうとも、何とも思わなくなる。この殺伐とした感情は、オレンジジュースを差し出される場面で、ハッと目覚め、火炎瓶を投げ込む場面で改心させられる。
 誰しもが持っている暴力的な差別の心を、見事にあぶり出す。それこそがこの作品のテーマなのだろう。これにはまんまとハマってしまった。
鋼鉄隊長

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