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ガーンジー島の読書会の秘密のumisodachiのレビュー・感想・評価

3.9
ナチスドイツに占領されたガーンジー島をめぐる物語。第二次大戦後に島を訪れた若い作家が、隠された過去を知る。

若く美しい新進気鋭の作家ジュリエットは、奇妙なめぐりあわせでガーンジー島から送られてきた手紙に興味を持つ。何度か文通をするうちに、ガーンジー島に足を運びたくなったジュリエット。というのも、手紙には謎に満ちた読書会についての興味深い話が綴られていたからだ。島に到着したジュリエットを友好的に迎える読書会メンバーだったが、なんだか様子がおかしい。読書会のことを記事にしたいという要請も拒否されてしまう。どうやら、皆で何かを隠している様子なのだが……・

ミステリー仕立てのあらすじになってしまったが、ミステリー要素がメインの作品ではない。あくまでも良質なヒューマンドラマだった。イギリスで唯一ナチスに占領された過去を持つガーンジー島が持つ過酷な過去。その記憶の遺産と共に暮らしている人々の苦しみと、彼らを取り巻く偏見。田舎の島が持つ閉塞感と戦争の傷跡は、人々を深く傷つけた。しかし、それでも彼らは、知性とユーモアを渇望し、思いやりを持って生活し続けていた。

ジュリエットを演じるリリー・ジェームズは、相変わらず驚異の愛されパワーで周囲を一瞬で魅了していく。ただし、『ベイビー・ドライバー』や『マンマ・ミーア』の続編で見せたような太陽のような明るさはやや封印。作家らしい内省的な雰囲気を持った勝気な女性として存在していた。良い女優だ。

はっきり言って、ジュリエットの行為はおせっかいだ。彼女が暴かなければ知らずにすんだこともあるし、最初から誰も彼女に謎解きを望んでなどいなかった。でも、ジュリエットのキャラクターがガーンジー島の人たちに理屈を超えたレベルでガッチリはまった!というのが伝わってきたので、全然違和感はなかった。悲しみを乗り越えた先で、彼らはジュリエットと出会えた。その運命を祝福するという流れが自然だったから。リリー・ジェームズの絶妙な芝居がなければ、ジュリエットが我の強いお節介女に終わった可能性は高い。

極めて地味なストーリーを持つ本作が大きな感動を呼ぶのは、ジュリエットをはじめとするキャラクターの魅力によるところが大きい。読書会のメンバーそれぞれの背景がしっかりと描写され、そのどれもが戦争の悲しい歴史と結びついている。だからこそ彼らの絆の強さに説得力が生まれ、彼らを愛おしく思えるのだろう。

また、ジュリエットサイドのふたりも魅力的。ジュリエットのよき理解者であり編集者のシドニー、アメリカ人でジュリエットの婚約者のマイク。彼らは公平で判断力のある大人として存在しているので、安心できる。(ちなみに、私は圧倒的にマイク派です。マイクに対するジュリエットのあの態度は酷いしズルい!)

雰囲気や世界観は『マイ・ブックショップ』ととてもよく似ているし、本作もとても良い映画に仕上がっている。ひょんなきっかけで始まった読書会が、島の人々の心を癒し連帯を生んだ。本作は、芸術の力を示す作品でもある。



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