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映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)のumisodachiのレビュー・感想・評価

3.9


ドラえもん長編映画43作目。今回のテーマは音楽。

リコーダーが上手く吹けないのび太は、川原で練習しているときに不思議な少女ミッカと出会う。彼女に誘われてのび太たちが訪れたのは「ファーレの殿堂」。今は機能していない殿堂を復活させるためには、のび太たちの力が必要だとミッケたちは言うのだが……。

音楽を表現することに全振りした作品で、そこのみ500点、あとは30点というアンバランスな仕上がりになっていた。

のび太たちとミッカとドラえもんの道具が川原でセッションする場面や終盤のクライマックスなどの音楽シーンは素晴らしい。あくまでもクラシックにこだわった真剣さで「音楽というものが生まれる瞬間」をリアルに表現しようとする気合に満ちていて、アニメ映画『音楽』で描かれていた”音楽そのものの本質”のようなものに迫っていたと思う。この映画を観て、音楽への情熱に目覚める子どもは確実にいるはず。

しかし、作劇は非常に杜撰。伏線回収はあるものの、掘り下げも足りなければ必然性も感じられない唐突なキャラクター、かなり強引なストーリー展開、宇宙空間を舞台にしているあわりにスケールの小さい世界観、なぜかちゃんと描かれない別れのシーンなど、いちいち引っかかるし消化不良な要素が多い。

特にいただけないのが敵の設定で、人格がなくて不気味というデザインそのものは良いと思うものの、そうであるならばのび太たち自身が敵の本質に気づくようにしないとダメな気がするのだが、途中で現れた長老的なキャラが言葉ですべて説明してしまうという……それじゃあ「あの不気味なやつ、一体何なの?」という序盤からの不安の意味なくない??あらゆることを言葉で雑に処理しすぎ。

しかし、私は本作が嫌いではない。むしろ好き。それは、本作に注がれるエネルギーの8割を音楽に込めているという潔さを感じるから。そして、その「音楽」に一切の妥協がない感じがするから。音楽シーンには圧倒的な高揚感があり、あれを味わうためにまた観に行ってもいいかなと思えるくらい。

前作は洗脳の怖さを描くために、理詰めの構成になっていた(それによって冒険としての迫力は損なわれていた)。今作は音楽の本質を描くために、理屈は度外視した構成になっていた(それによってストーリーの完成度は損なわれていた)。ドラえもん映画は、このように何を重視するかで作風がかなり変わってくるので楽しい。コナンやしんちゃんの方が安定しているけれど、毎回感じるものは大体同じではある。でも、ドラえもんは年によって全然違う。それが魅力なんじゃないのかな。
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