イライライジャ

ブリグズビー・ベアのイライライジャのレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.2
長年両親によって自宅監禁されていたが遂に外の世界を知る映画は『アブノーマル』『バブルボーイ』『ルーム』などがあるが、本作は最もハートフルで毒っ気のない展開だった。
(『アブノーマル』では善悪の区別がつかない主人公が、サランラップには抗菌効果があるとだけ知っていたゆえに両親をサランラップでぐるぐる巻きにして外出してしまう。)

オープニングから80年代風教育テレビの映像が流れるがもうすでにここで泣いてしまった。人間誰しも幼少期大好きだったものを忘れながら成長してゆく。何度も観ていたテレビ番組や、親に買ってもらったぬいぐるみやオモチャも忘れてゆく。
大人になっても当時のものを追い続けてる人なんてごく僅かどころかほぼいない。
私は親ではないが、我が子が何も覚えてないのは親としては少し寂しいのかなとも思ったり。が、本作は25年間もそれを続けてしまった偽の両親もとい誘拐犯たち。

私はラプンツェルが大嫌いな理由に例え誘拐でも十数年育ててくれた育ての親を簡単に見放し、塔から突き落として殺すという立場上悪いキャラを悪としてしか見てない部分が嫌い。どんなけ悪い人間でも犯罪者でも、親は親である。(本当の親の気持ちは置いておいて)(そしてディズニーに何を求めてるねん)
監禁されていて犯人に情が湧くストックホルム症候群になる作品はたくさんあるけど、本作は誘拐犯をちゃんと“元両親”として捉えてるところが好き。嫌悪感を示さないのはありそうでなかった。
ずっと見せられていた教育番組ブリグズビーベアは実は父によって生み出された偽の番組と知った彼は父が製作者だったことに喜び、続編製作計画を進めていくわけだけど、映画完成のために“元父”へ訪ねるシーンは号泣。なぜ自分は誘拐されたのか?などの問いかけはせずただただあなたの声が必要だと。

この元両親たちが何故誘拐したのかなどは一切明かされないが、きっと子に恵まれなくて我が子のように育てたのだろう。脚本家が「愛でもあり、支配でもある」と言っていたがまさにその通り。バレてしまうことへの恐れと離れていってほしくないという愛が重なり、外界から完全シャットアウトしてしまっていた。
ピュアで愛されキャラなところを考えるとおそらくきちんと善悪の区別も教育されていたんだろうな。自分が作った番組しか見せないなんて歪んだ愛情でしかないけれど、彼にとっての25年間は決して無駄ではなかった。
ブリグズビーベアに出会えたのだから。

人は皆、“あの時の純粋に好きだった気持ち”を忘れてしまう。その“ただ純粋に好き”という気持ちを持ち続けれたらどれだけ優しい世界だろうと思う。
大人になりきれない大人たちは確実に心に響く傑作。