ベルサイユ製麺

泳ぎすぎた夜のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

泳ぎすぎた夜(2017年製作の映画)
3.9
『息を殺して』があまりにも好みだったので、慌てて五十嵐監督のその他の作品も借りてきました!

『泳ぎすぎた夜』
フランスの新鋭ダミアン・マニヴェルとの共同監督作品。(ダミアン監督作品未見です…)

これはですね…、

おはよう
幼い、まだ小学校入ったばっかりくらいの男の子が、その日は学校に行くのやめて、お父ちゃんの働く魚市場にひとりで行く事にした。上手に描けた絵を見せるために。
…大変だった。結局間に合わなかった。
おやすみ🐟

…というお話です。今作もストーリーがどうとかって事ではなく、ただ、主役の男の子が絵を描いたり、おミカン食べたり、犬に(!)吠えたりしてるのを見つめるだけの79分!…しあわせ。

舞台は青森。雪深い田舎の風景。お父さんはうんと早起きしてまだ魚市場に出勤します。
男の子は変な時間に目が覚めちゃって、ひとり薄暗い台所でお菓子ボリボリやったり、お布団の上にオモチャ並べて写真(多分おさがりのデジカメで)撮ったり、お魚の絵を描いたりしてます。あー、可愛い。
結局そのまま眠れなくて、朝の食卓でうとうと…。お姉ちゃんがお人形の着せ替えみたいに服を着せ替えてくれました。
お姉ちゃんの後をついて学校に行く…筈が、途中で道をそれて雪遊びを始めてしまいます。暫く一人遊びに興じた後、思いついたように駅に向かいます。

と、…言ってみれば、初めてのおつかいみたいなものなんですけどね、兎にも角にも主演の男の子の“子供っぷり”の良さにノックアウト(肘有り・首相撲有り)ですよ!変な姿勢で写真撮ってる時。電池が切れたみたいに雪に倒れこむ時。柴犬に吠え返してニッコニコの時。もう、完全なる可愛げの塊!
そして、その魅力を余すとこなく写し取る撮影の的確さたるや…。シーン毎の尺も絶妙です。ビバルディが流れる車中のシーン!ジャスト。予め正解が分かってるみたい。これは天賦の才と言わざるを…のヤツです。
廊下でポツンと佇むコロコロした柴犬がめちゃくちゃキュートです。このモチーフ、『息を殺して』でも有りましたが、果たしてその意図は?単に犬好き⁇

ストーリーはこの上なくささやかなで、他の多くの劇映画の様に主人公の男の子の成長が描かれたりはしない、…どころか始まりと終わりが円環構造なものですから、同じ事が繰り返される予感ばかり強く感じられてしまうのですが、それでもこんな事を繰り返してる内に、あの子は成長していくのだろうな、と勝手に親身になって目を細めてしまいますよね…。
閉じることによって拡がりは無限に。

共同監督作なので、全てが五十嵐監督のテイストという訳ではもちろん無いと思うのですが、前作同様、人を見つめる視線・対象との距離感といった“目の良さ”はビシビシ伝わってきました。やっぱり五十嵐監督相当に良いよ!
…あと、私は猫原理主義者ですけど、柴犬可愛いなぁ。まいったまいった。