ケーティー

リベンジgirlのケーティーのレビュー・感想・評価

リベンジgirl(2017年製作の映画)
4.1
ラブコメを基調にしつつ、政治を題材に切り込もうとした野心作。


複数人で企画を練り上げてるだけに、プロットはしっかりしている。
ディテールも振り切るところは思いきって振り切ってリアリティを無視しているが、選挙活動などはある程度取材して作っていることがわかる。
選挙は秘書で決まること、所詮は政策的主張などもたない政治家の欺瞞、宗教と政党の関係など、戯画化して漫画的に描きつつも、際どいテーマに実は触れている。
おそらく邦画の伝統的な映画会社でなかったからこそ、製作できた作品。
いっそのこと、現代の政治を皮肉るブラックコメディにする手もあるが、そうしたら桐谷美玲さん主演のメジャー映画にはできなかっただろう。

本作は女優陣が総じて良い。主演の桐谷美玲さんは、振り切った演技と時折見せる乙女な戸惑いの演技がよく、脚本上のシーンとしては大したことなくとも、その困惑ぶりの演技で可笑しくさせたりするほど。また、斉藤由貴さんも基本はキャリア・ウーマンとしてピシッとしつつ、愛嬌や包容力・度量を見せる、クールな中でも緩急をみせる芝居がいい。

しかし、ラブコメとしては、男優陣が弱いのである。鈴木伸之さんは悪くはないが、映画の魅力を高めるほどの存在になっていない。というのも、演技がすごく下手ではないが特別うまくもない。こういう役こそ、ジャニーズがもっとイケメンイケメンしてやるか、堺雅人さんなど演技派をもってきて、どちらかに振り切るべき。清原翔さんは経験が浅いだけに下手で、特に終盤選挙事務所で嫌味を言うシーンが、御曹司ではなく歌舞伎町のチンピラにしか見えない。本作のお坊ちゃんぽくて裏があるという役どころは、小出恵介さんあたりだとハマっただろうなと思って観ていた。

さて、本作の評価は一般的には必ずしも高くない。その理由てして、個人的には3つ浮かんだ。

まず1つは、主人公を応援したいと序盤に思いにくいこと。初めから嫌味を言う主人公と言う設定は、そもそも、その人間性に救いようがない。そのため、どうしても主人公を応援しづらい。しかし、実は主人公の内面に潜むがんばり屋さんなところを評価できるかどうかで、本作の印象は変わるだろう。私などは、親が全く出ず、外での性格は悪い姉(主人公)でも、妹が慕いきっている様子をみると、おそらく、必ずしも裕福な家庭ではなく、場合によっては、親もなく主人公が母親代りとなって必死にやって来たのではないか。そんな気がして、話が進むにつれて応援したくなった。しかし、本作は意図的に裏設定ではあっても出さなかっただけかもしれないが、そうした主人公の事情をそもそも全く言わせない。もっと主人公の生い立ちなどを匂わせ、より多くの観客に共感させる人物に出来たのではないかと感じた。また、主人公の魅力は優しさにあり、それはある女性とのエピソードで如実に表れるのだが、その優しさの裏付けもこの生い立ちに関わってきそうである。さらに、初めのミスコンで毒を吐くシーンも、例えば、彼女たちのように私は嘘をついて愛想を振り撒き、ミスコンを勝ちたくなかったなど、何かエクスキューズを、話の中盤や終盤でもいいので、入れてもよかったかもしれない。

次に2つ目は、テーマが弱いこと。本作と構造が似ている作品に、「キューティ・ブロンド」があるが、この映画は人を偏見や先入観で判断してはいけないというテーマを手を変え、品を変え、様々なエピソードで見せていく。翻って本作は、強いてテーマを上げるなら、嘘をつかずに生きることなのだが、このテーマ自体を深めきれていない。政治において、このテーマは重要だし、ストーリーの上でもそれがよく効いているのだが、人物たちの視点に移すと、なぜ主人公がこれほどまでに嘘をつかずに生きることに拘るのかがわからないし、そもそも主人公自身も嘘をついてしまう。「キューティー・ブロンド」が秀逸なのは、自分は偏見や先入観をもたず誰とでもフレンドリーに接する、その前提として、序盤に彼氏に理不尽な理由で自分フラれるシーンをしっかり見せ、そういう風には生きないことを決めた主人公の根源をわからせることにある。本作も、彼氏に嘘をつかれてフラれており、構造はおそらく参考にしている。ただ、主人公は彼氏にフラれる前から、ミスコンで毒を吐いたり、嘘をついていない。そうすると、そもそもなぜ彼女が嘘をつかないで生きてきたのか、というのがとても重要なのだが、それが描かれていないのである。また、主人公自体が政治に関心をもつきっかけも、台詞で言うのでわかるが、エピソードで見せる工夫があるとよりよかったかもひれない。例えば、「キューティー・ブロンド」では、友達の犬を取り返すシーンで、弁護士の面白さに主人公が気づくシーンを入れるなどして、彼氏との復縁よりも弁護士としての活躍に目標が変わる過程をしっかりエピソードで描いている。

最後に3つ目は、主人公に専門性や特殊性が1つあってもよかったのではないかということ。そもそも東大卒の美少女が政治家を目指すというのは、スペック的には普通に政治家になれる。もっとも、この自頭のよさがあるからこそ、選挙戦でわりといきなり戦えるし、余分な説明の描写(※)を省くことが出来ていて、映画のテンポがよくなっている。しかし、主人公ならではの特殊能力で選挙戦を戦うエピソードがあってもよかったのではないか。例えば、前述した「キューティー・ブロンド」は、主人公が得意の美容ネタを裁判で犯人を追い詰める武器にするのが痛快なのである。本作も主人公が持ち前の勉強が得意という特技を生かすシーンがあるが、少し弱い。また、ミスコン時代の友人を使うアイデアもいいが、その上にさらに主人公がミスコン時代に培った自身の能力を生かすアイデアがほしいのである。

具体的な要因としては、上の3つが浮かぶが、そもそもの根本的な構造に「キューティ・ブロンド」や政治を題材にした名作映画「デーヴ」のように逆転劇の構造を盛り込んでもよかったのかもしれない。この2作に共通するのは、味方だと思ってた人物に実は主人公が都合よく利用されようとしていたという構造があるが、2作ともに、それを主人公の機転で逆転していくのが面白さになっている。本作もそうした構造をとっていてもよかったかもしれない。例えば、斉藤由貴演じる選挙プランナーであり政治家のベテラン秘書が、実は主人公を利用しようとしてたなど、そういう展開があると、より主人公に応援したくなったのではないか。また、こうした展開のよさは、主人公が味方だと思っていた人物がそうでないと知ったとき、自問自答し、改めて自分の進むべき道を考えざるえないという展開にもっていけることである。こうした構造をとってもとらなくてもよいが、少なくとも主人公が自分が政治家として進むべき道をもっと切実に考え直すシーンはあってもよかったかもしれない。


※例えば、主人公が選挙や政治、一般常識を事細かに学ぶ過程をある程度削除できる。また、選挙戦で戦う技量に説得感が出る。逆に、篠原涼子さん主演の「民衆の敵」は、主人公を中卒にすることで、学ばざるえない設定にし、主人公が政治を学ぶ過程で、視聴者にもその内幕をわからせていく手法をとっていた。これは、時間の長い連ドラならいいが、映画だとテンポが悪くなるし、そもそもドラマでもその主人公の無知の描写がくどいと感じることもあった。