ベルサイユ製麺

ハード・コアのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ハード・コア(2018年製作の映画)
4.2
…またあいつらに逢えるなんて。

原作ファンです!…狩撫麻礼はそんなによく知らなくて、作画のいましろ先生のファンです。と、言っても『トコトコ節』から入って、『デメキング』や『ハードコア』は後追いした格好。
いましろ先生の作風は、つげ・水木先生ラインの無気力な日常劇、オフビートなコメディを基調にしつつ、根底に渦巻くジャスティスで緩んだ世間に風穴を開け損ねる…みたいなのが多いかな?と思っているのですが、余りに強烈な印象の『ハードコア』に引っ張られて思い違いをしているかもしれません。
鑑賞前に原作を読み返そうと思ったのですが、…無い。誰かに貸してる…。ジャスティス拡散。初期のいましろ全部無い。まあ、その辺の上手くいかない感もいましろ作品らしいという事で…
…ぶっつけで観ました!
そして驚愕!!これは完璧だ!!!!

個人的には漫画原作モノでここまで空気感を再現出来ている作品は他に無いんじゃないかと思いましたよ。
山田孝之、原作より若すぎないか?と思ってたんですけど、佇まいは完璧に右近!そして荒川良々の牛山!!神の当て書き!佐藤健も完全にいましろワールドのイケメンに見える。何より驚かされるのは、キャラのルックもひっくるめた、映画全体の面持ち、空気感が完全にいましろ作品になっている!…よくありますよね?スチールが出た時は“いいんじゃん?”て思わされるのに、いざ動き出すと単なるコスプレ撮影会だった〜ってヤツ。ホントこれ見習って欲しい。原作好きじゃないんならやるなよ!!!


長年理想を追い続けた結果、たまたま完全に負け犬の姿を模してしまっているが、内なるジャスティスに突き動かされる(が、未だ動きのない)孤高の狼、右近。
一流商社に勤め、何でも器用にこなせてしまうイケメン左近。左近はいつまでも夢のような事ばっかり追求している兄、右近に対し侮蔑と敬意が入り混じった複雑な感情を抱きつつ、結局アウトプットは見下しているふうになってしまって、会えばいつも衝突ばかりだ。
そして、当て所なく彷徨っていたところを右近に拾われた丸山。今では家族同然だ。彼のイノセンスは右近のジャスティスと呼応する(ように右近には思える)!
右近と丸山は、まるで風に追い込まれて巻かれる綿ぼこりのように都会の片隅でもがいていた。
ただ“拾われた”、“同じくジャスティスに生きる”という理由で過激派活動家金城さんの仕事を手伝い、疑問一つ抱かず埋蔵金探しにも精を出した。活動資金…。埋蔵金…。ジャス…ティス…。
そんな彼らの終わらない日常を、一変させる出来事が、出会いが彼らに訪れた!
“ロボオ”



みるみる蘇る金狼、いや感動!原作のストーリーが立体化されて鮮明に思い出される、と共に当時の気持ちまで蘇ってきやがった。
…『ハードコア』やその他のいましろ作品に初めて触れた頃、自分はその作品群の意図、燻るジャスティス感を正面から捉えられていなかった!クソみたいなサブカル趣味の一環として、単にモンドとして消費してしまっていたのだ。自分は右近に頭突きを食らう側だったって事だ。
そうして理想無くただ生き続けた結果、完全に単なる負け犬になっていた。牙は全部抜け落ちた。路地裏に身を低くして、真人間の姿に怯える。自分より下を探して心を落ち着ける日々。そんな生きてるだけでギルティな自分に、蘇った“地獄ブラザーズ”は強烈な一撃を食らわせてくれたのだ。

原作発表当時に比べても社会は確実に悪い方に進んだ。世間の空気はより重い絶望感に包まれ、“負け”の領域は信じられない程に広がった。負け犬を踏み台にして負け犬から脱する無限の階段を登っている内に人生は終わる。そしてこれが現実だ、と思わされてしまった。
今、『ハードコア』は訴える。いつも心にジャスティスを!、狼のあの美しい姿を抱け!

…なんだ、このノリ。
ホントに自分が書いたのかしら。でも、マジで戦う準備はしといた方が良いと思います。最悪、…ロボオが高く連れ去ってくれる。手に手榴弾、ではなく『ハードコア』を持ち、内なるジャスティスの牙を磨け!
傑作!必見!!

因みに、いましろ先生の震災以降の漫画作品はジャスティスが前面に剥き出しになっております。覚悟が完了している方はいきなりこちらでも良いかもです!安倍自民に怒り、烏賊を釣る。猫を撫でつつ、オレ年々エロくなるな…とボヤくジャスティスおじさんの戦いの記録に刮目せよ!!
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