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花筐/HANAGATAMIのHKのレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
3.2
“A MOVIE” 大林宣彦監督ひとり追悼鑑賞。
1980年代の大林作品はリアルタイムにほぼ観てきた世代ですが、90年以降はあまり観ておらず、最後に観たのは宮部みゆき原作の『理由』でしたから、その後の新作を観るのは15年ぶりくらいです。

本作の原作は檀一雄、太平洋戦争前夜の佐賀県唐津市が舞台の青春群像劇。
大林監督が40年以上も暖め、ガンで余命わずかと宣告されてから撮った作品ということですが、なるほど大林監督のこれまでの想いが良くも悪くも全部詰め込まれた作品のような印象を受けました。

全部詰め込まれた分、尾道三部作のような多くの人が共感できるわかりやすい作品ではなく、かなりマニアックな作品となってしまいました。一部で評価が高いのは、これまでの功労賞的な意味合いだと思います。

同じ九州の福岡県柳川市が舞台の『廃市』(1984)の雰囲気に少しだけ似ていますが、もっと絢爛にもっとケレン味タップリにした感じでしょうか。
今回舞台となった唐津は黒澤明監督の『夢』のロケ地でもあり、このとき大林監督は黒澤監督の指名でメイキング映像を撮っています。そのせいか『夢』に出てきたシーンを思わせるシーンもありました。

他の名作映画のオマージュと思わせるシーンや、あえて8ミリ感覚の自主製作っぽさを出す手法、吸血鬼のイメージ、独特な配役、など遊び心は相変わらずです。
男性の白い鉢巻に、女性が口紅を塗った唇でキスをして日の丸にするシーンは印象的。門脇麦の存在感。

ただ、大林作品に初めて接する人には、とてもこれこそが大林作品ですと奨めたい作品ではありません。

1980年代、当時学生だった私は、この自主製作テイストと等身大のキャラクターが主役の大林作品をとても身近に感じ、デジタル時代になってもフィルムにこだわるその姿勢を粋に感じ、またCM監督がメジャーな映画監督になっていく様子を憧れの目で観ていました。
そして『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』『廃市』『異人たちとの夏』これらの大林作品をこれからも機会があれば何度も観ることでしょう。
HK

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