ベルサイユ製麺

ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.5
ギザギザに尖ったスペイン映画が来ましたよ!!タイトル見て、「あ、コレはいいや」ってなりますよね? ちょ、ちょっと待って…。ケ、ケーキを焼いたんです!

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あらすじ…
マドリード。連続して起こる老女強姦殺人。事件を担当するのは、暴力沙汰でクビ一歩手前のマッチョの権化の様な男と、観察・分析能力には長けるもののコミュニケーション能力に難の有る優男(風)、の2人の刑事。
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…ケーキは、ありません。…ウソです。
あー!まってぇ…。
…またやっちゃった。
…それでも、残った数%(例えば文字を読み続けないと全身からウロコが生える病とか)の方に向けて、この作品の魅力を伝え隊!メンバー募集。
⚫︎ありふれたバディ物ではありません!
主人公A…外見は物静かな紳士。いつでもスーツを着用。ルックスは井上順似。幼少期の心的外傷の為に軽度の吃音有り。徹底的に資料に当たったり、殺害現場で死体になりきったりの偏執狂的捜査手法で、優秀には違いないがコミュ力が低い為にいつも孤独。特に異性との関わりは少ない、か恐らく生涯で皆無⁈そのせいでとても良くないことが起こる…。
主人公B…見た目からもすぐ分かる男性ホルモン過多(ストーンコールド系)。同僚を障害が残る程の半殺しにした事により署内で肩身が狭くクビ寸前。豪快な性格の為近辺に仲間は多いように見えるが、ジャイアンとその子分達の関係の様でも有る。意外にも家庭をとても大切にしている…。

この二人の凸凹コンビが、お互いの欠点を補い合い上手く機能し…たりはしません!
基本的に止む無く一緒に行動しているだけなので愉快な掛け合いとかはほぼ無し。私やあなたが、苦手な人と偶々ふたりエレベータで乗り合わせてしまった時のあの感じ。でもその分、劇中の2人が些細なエロ話で期せずして盛り上がったり、捜査の方針が一致する瞬間にはジワっとくるカタルシスが有ります。
映画は、この2人のそれぞれの人間ドラマ(障害にぶち当ったり、乗り越えたり、しくじったり)が割合で30%づつ位、2人が衝突したり相互理解を深めたりで捜査を進めるセッションのシーンが10%位。で、残りの30%が事件の真相と犯人について、みたいな構成です。個人の見解。
この作品、スパニッシュミステリーによく有る、すごく入り組んだ謎や驚きのトリックがある訳ではありません!それどころか後半になると何の解決の糸口も与えられないまま犯人がいきなり登場人物として現れ、彼の主観視点のストーリーも追加されます。
しっかり検証したわけでは無いのですが、恐らく犯人のキャラクターは、2人の刑事の人格をミックスした人物として設計されているような…。(そこが謎解きの鍵になる、とかでは有りません。)
中盤、刑事2人が街中で見かけた“仔猫にミルクを与える男”を犯人と認定し追跡するシーンが有りまして、確かにご都合主義的で不自然な展開では有るのですが、2人の刑事のうち、“優しさ”を受け持つ側のキャラクターが、犯人の内面の“優しさ”の発露に感応した、と見立てるのが相当だと思いました。でも、まあ不自然ですけどね…。
メインの登場人物、刑事達と犯人の3人の止む無く形成された人格や、社会通念と対峙し踠き、和合を試みる様など、彼らの内面が丁寧に描かれます。ウェイトはあくまで人間ドラマで、しかし人間の心理そのものがミステリーだと言えなくも無いです。

役者の方々は誰一人存じませんがその事も功を奏し、大変な実在感を持って感じられました。技術的にも大変に高いと思います。
演出も巧み。現場に踏み込む緊張感や、地下室の心理にシンクロするように明滅するランプ。手玉に取られます。
撮影も風景、人物ともそつなく、またスパニッシュサスペンスの十八番、危なっかしいドキドキ長回しシーンも用意されています!最小限の劇伴も効果的。
何より、脚本がとても好ましい。場面の省略がとても上手い!何かの瞬間や原因になる出来事を敢えて描かず、その為に想像力次第で深みや豊かさがうんと増す構造になっています。逆に、想像力を働かせないと「なに?どゆこと?」となりそうです。
虚のつき方も見事で、後半の或る大きな出来事には心を鷲掴みにされ前のめりになってしまいました。(「ビンセント!!」って感じで。)

※以下4行程、ネタバレ気味!
結末、詳しくは書きませんが、この物語に相応しい、見事に図式的な回収がなされていると思います。(『リン○の冒○』ていうゲームやった事有りますか?)
ネタバレ終了。


…と、褒めちぎったところで、今作の問題点を。
エグいです!直接的な犯行の過程の描写は最低限に留めてあるので、見ていられない様な場面は少ないのですが、被害者の遺体はしっかり目描写なので「うわ」となります…。このテーマじゃないと成立しないストーリーなのは充分理解できるのですが、やっぱりキツイですよね。まあ、“幼女”とかにするよりはマシに思えますけどね。小説とかならマシなのかな…?
邦題の副題!…コレは難しいところです。副題でちゃんと断っておかないと、覚悟無しにこんなの見せられても拒絶感凄いでしょうし、しかし現実この副題のせいでスルーしてる人が凄く多いだろうし。あー、もったいないオバケが通りを埋め尽くしてパレードですよ!

…まだ、読んでいただいていて、ちょっと観てみようかな?と思っていただいた方がいらしたら、
⚫︎謎解き的な推理は不要
⚫︎遺体は直視する必要無し!
⚫︎ラストは頭フル回転で!
…等に留意してご鑑賞頂ければ存外にお楽しみいただけるものと思います。
「なんかボンヤリしてる」としか思えなかったら…、それがリアルって物だと思いますよ。