大野

バッド・ジーニアス 危険な天才たちの大野のレビュー・感想・評価

4.2
タイを知っているかどうかで、
作品が別モノに見えると言っても、
いいかもしれない、教養になる一作。

知らなかった僕としては、
鑑賞後に事情を知ったことで、
ある種のどんでん返しを食らった気分です。

なので、
まずはそのまま観ていただいてから、
僕のレビューを読んでいただくことを、
オススメします。

一応、知らずに観た感想としては、

どデカいツッコミどころはあるし、
割とグダグダだな〜とは感じたものの、

だからこそのリアリティがあったりもして、
一応オススメ◎

って感じでした。笑


では、ここからはネタバレを。


監督曰くモチーフは、

『ある国の学生たちが、
 時差を使って別の国に行き、
 カンニングをした事件』

と述べており、
該当する件を調べてみたところ、

2014年米国大学進学適正試験(SAT試験)にて、
時差の利用による不正が、
初めて摘発された件があり、
首謀者は、タイ人ではなく韓国人でした。

その後、それを知った中国人も、
真似を始めた模様。。

(作中では試験名が、
 STIC試験となっていましたが、

 実際の米国大学進学適正試験名は、
 SAT試験。 
 おそらく権利の関係。)

以前からSAT含むTOEFL等の国際試験で、
時差による不正行為は、
広く噂されていたらしく、

初の摘発が、前述の事件であり、
世界でも広く取り上げられたことから
プロデューサーの耳に入り、
今作が始動した模様。

(実際に使われた手法は、
 タイ人を雇い、試験を受けさせ、
 試験用紙を外に持ち出し、
 メールで送信させ、答案を作り、
 アメリカで受けさせたとのこと。

 当時タイは、
 管理がガバガバだったらしい。)


あと、組織的カンニングのモチーフは、
おそらく中国から。

こちらはなんというか、
昔からメジャーな事件って感じらしく、

後で詳しく書きますが、
特定の事件を指してるというよりは、
全体の問題って感じ。

これら2つを組み合わせたのが、
カンニングの元ネタかと。

ちなみに、作中の鉛筆コードは、
監督のアイディアとのこと。


序盤の、消しゴムカンニング辺りの流れが、
最初観た時はよくわからなかったのですが、

どうやらグレースは、
テストプリントを事前にこっそり渡されていた、
ということっぽい。

リンが試験開始直後に、問題を見て、

“ ん? 何か違和感がある、、?
 いや、やっぱりこの問題、
 見覚えがある、、全く同じだこれ!“

周りを見る。
笑っている奴がいる。

“ まさか、、そういうこと!? ”


、、、そっちがその気なら、
こっちもやることやってやる。っていう。


この作品を理解する上で欠かせないのが、
タイの格差社会についてです。

タイは貧富の差が激しく、
その上、学歴偏重社会だそうで、

どれだけスキルがあって頑張っても、
学歴のある人間より、
給与などが上がることはなく、

(スキルのある者が、
 会社の利益を上げたとしても、

 当人の給与増よりも、
 学歴で上にいる者の給与が増えるという。)

そして、賄賂は当たり前ときた。

つまり金持ちはズルをし、学歴を得る。
そしてその学歴でまた金持ちとなり、
子どもにズルをさせる。

という、
完全な悪循環が出来上がっているそうで、

その結果、
人口の1%が、66.9%の富を独占、
という意味不明な状態に。
(2018年情報)

分かりやすく書くと、

(※ 以下の金額は、実際の数値ではなく、
   割合からの例です。)

金持ち1人が67万円を手にすることに対し、
33万円を、99人で分ける状況なので、

(33÷99=0.333…≒1人3000円)

金持ち 670,000円
一般人 3,000円

670 対 3

670÷3=223.333…

約223倍差、っていう。

(もっと分かりやすく例えれば、

 社長と99人の社員がいる会社で、

 社員はどう頑張っても、
 平均年収36万円なのに、

 ポンコツ社長は遊んでても、
 年収8040万円ってことです。

 もっと言えば、
 社員の中でも上下があるでしょうから、

 言うまでもなく悲惨ですよね。

 一応参考までに、
 2017年度のデータによると、
 営業マンの大卒初任給は、
 月収約6万円相当とのこと。

 先ほどの会社の例に当てはめると、
 社員は平均年収72万円に対し、
 社長は年収1億6,080万円。)


まさに、作中のパットとバンクの、
暮らしになるのだと思います。


リンの親の行動も、
全ては学歴によるものです。

借金してまで賄賂を渡し、
金持ち進学校に転校させたのは、

リンの頭脳ならば、
より上の学歴で卒業できる可能性がある。
留学も夢ではない。

どうにか、良い学歴を得させてやりたい、
ただその一心だったのだと思います。

(まぁ学校の実態は、
 賄賂を受け取ってテストを事前に渡す。

 難しいテストを解けたことにして、
 難関高を卒業したことにする。

 っていうマッチポンプ校な訳ですが。)


そしてここからが本作の肝、
肝というか更に闇な部分、

「留学」の件ですね。

タイ社会にとって「留学」とは、

重要なのは学ぶ内容や結果ではなく、
その「学歴」にこそ意味があるとのこと。

なので、パッドの親たちは、
息子とその彼女を、
ボストンに入れようとしますし、

金持ちの子らは皆、
カンニングで試験をパスしようとします。

逆に、バンクとしては、
ボコられて試験を逃したことが、
どれほど辛い意味を持つのかっていう。

必死に勉強し、
奨学金で金持ち校に通い、

一生が決まると言っても、
全く過言ではない試験だったからこそ、

真相がわかった時、
あれほど怒り狂ったという訳です。

そしてラスト、
高校を退学されられたということが、
どういう意味を持つか。

もうお分かりですよね。

最後のバンクの、落ちっぷりの通りです。

日本に住む僕らからすると、
急な変様で、唐突に感じたかと思いますが、

あれは何も、
おかしな変化ではないんですよ。

バンクにはもう、
まともに稼ぐ手段がないんですから。

何かをやり直そうにも、
その資金が集まることはなく、

文字通り、
その日暮らしで生きていくしかない、

必死に勉強してきたのが、
全て水の泡。


クリーニング店だけに。

…すみません。笑


そして反面、
金持ち達はカンニングで試験をパス。

楽々勝ち組、万々歳、と。


エンディングの最後に校歌があるのですが、

♪ 我が校は知識を最も大切にする〜
♪ 友情は色褪せず、固い絆で結ばれている〜

ものっすごい皮肉。


海外のことって、
ほんと調べれば調べるほど、
日本では考えられないことばかりで、
度肝を抜かれます。。

よく、
日本に生まれたというだけでも、
相当運が良いんですよ、って聞きますが、

運が良いどころか、
かなり神引きしてるといっても、
過言ではないなと。

そんなことを思うに至った一作でした◎


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
溢れた小ネタのコーナーです。


タイや中国、韓国の試験不正は、
昔からの問題らしく、

特に中韓では、
試験管理側までがグルで漏洩させていたり、

予備校が、
耳の中に入るサイズのスピーカーを作ったり、
消しゴムに超小型の電子機器を仕込むなど、

もうやりたい放題。。

スパイ顔負けのデバイスが、
毎年いくつも発見されるそうな。

その手のコンサル業まであるらしく、

受験会場に不正電波妨害車を配置するのは、
もはや当たり前。

その際、付近の住民には、
電波がつながりにくくなる旨のメールが、
通信会社から届くらしいです。

そして驚くは、摘発された際、

「なぜウチの子だけ!
 他の奴もしてるだろ!」

とクレームをつける親まで出てくる始末。

当人ら含め、
恥ずかしいという意識は全くないらしく、
戦い方の内という認識らしい。

、、どこからツッコんだらいいんだ?笑

(学校試験のみならず、
 運転免許証など、あらゆる試験で、
 不正行為が行われているらしいです。)


作中にもありましたが、
タイでは、学費とは別に、
賄賂も渡すのが一般的とのこと。

現金に限らず、
テレビやPCなど現物であることも、
日常茶飯事なのだとか。

教師の親族にまで渡すこともあれば、
身体を売るケースも珍しくないなど、
もう滅茶苦茶。

絶句ですね。


p.s.(2022.02.02)
おぉ、日付が2ばかり。。
なんかすごい。笑

バーツ換算、物価感覚について。

今現在、1バーツ=3.45円でしたので、
簡単に計算すると、

1教科3000バーツ=約1万円

×13教科=約13万円
×パットら6人=約78万円

(詳しくは、23万4千バーツ=約81万円)

父の賄賂20万バーツ=約69万円

STIC報酬200万バーツ=約690万円

物価は、首都バンコクで、
おおよその品が日本の約3分の1っぽいので、

感覚値的には日本でいうなら、
上記の数字の3倍の報酬に当たるかと。

つまり、
1教科=約3万円
13教科=約39万円
×6人面倒=約234万円
父親賄賂=約207万円

STIC報酬... 約2070万円。

バンクの100万バーツ上乗せ要求は、
僕らでいう1035万円相当になる訳で。

そりゃ目も眩む。。

まして、
リンの初のビジネスカンニング至っては、
大事な親が、服すら買えない中、
借金して207万円も工面してくれていたと知ったが故。

そこにパットの提案は234万円。

この状況が、どれほど彼女を悩ませたことか。

そして悩んだが故に思いついてしまった、
ピアノ伝達法。

その時のリンの気持ちなど、
きっと僕らには想像もできないですよ。


p.s.(2022.02.03)

バンク起業すれば?問題について。

確かに200万バーツを手にした彼ですが、
タイの事情を調べてみると、
学歴偏重社会と呼ばれるだけあって、

お金を多少手にしたからといって、
上手くいく社会ではないようです。

そもそも起業するにも、
最低100万〜200万バーツが必要となり、

まして中退者では、
まともな人材や人望を集めるのは困難であるため、
出資者を募るにも厳しそう。

(この辺りはおそらく、
 学歴金持ち側が作りあげてきた空気でしょうね。

 外資が加わる場合、
 規定で資本は最低200万バーツかつ、
 融資は50%まで。
 つまり100万バーツは必須。

 仮に、作業場と社員5人の会社を想定した場合、
 試算を見ましたが、
 毎月20万バーツは売上を出す必要があり、
 年間300万バーツは必要とのこと。)

もちろん、
彼ならやってのけたかもしれません。

PCを購入し、個人で事業を始めるなど、
彼の頭脳であれば、何かできたかとは思いますが、

あくまで彼は、
学業の優秀者であって、ビジネスは未知数です。

日本ならば失敗しても、
命を脅かされることはまずありませんが、

彼は一度失敗したが最後、
まさに地獄の始まりであり、

バンクとしては、
リスクのある行動よりも、

クリーニング店の延命かつ、
母親を助けることを優先したのだと思われます。

カンニングでは、
刑務所送りにならないと知ったことも含め、
総じて賢さゆえの選択だとも、僕は思いました。


ちなみに、金持ちカンニング勢ですが、
バラされて留学できなかろうと、

有名私立高を卒業しているだけでも、
十分有利らしいです。

ビバ・学歴偏重社会。(皮肉)

(現在は、多少格差が縮みつつある模様)
大野

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