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バッド・ジーニアス 危険な天才たちのumisodachiのレビュー・感想・評価

4.3
中国で実際に起きたカンニング事件を元に作られたタイ映画。文句なしに面白いジェットコースター系エンタメクライムムービーに上がっている。長いけど、あっという間。

貧しい父子家庭で暮らしながらも、天才的な頭脳を持つリン。特待生として有名私立高校に転校したリンは、試験の際に親友グレースをちょっとした機転で手助けする。そのことを聞きつけたグレースの彼氏パット(金持ち)は、リンにカンニングビジネスを持ちかけるのだが……。

道義的に問題があるテーマの場合、プロジェクトが成功するのか失敗するのか読めないという面白さがある。『ミッションインポッシブル』ならば、「はいはい、どうせギリギリで成功するんでしょ」と分かってしまっているわけだが、高校生のカンニングとなるとそうはいかない。盛大なクライムものとして見れば成功してほしいし、倫理的な感覚としては失敗してほしい。観客は、アンビバレントな感情を抱きながら鑑賞することができる。まあ、こういった場合は往々にして……というパターンはあるものの(実話を元にしてるわけだし。その事件自体は知らなかったけれど)、こういった疾走感のある作品で、先が読めないという楽しみを純粋に味わえるということはあまりないので、それだけでも十分にハラハラドキドキだった。

そして、キャラクターが良い。リンと、もうひとりの秀才バンク、そしてリンの親友グレースと彼氏のパット。この4人を中心に物語は展開していくのだが、全員キャラが立っているし、それぞれが魅力的。よくもまあここまでピッタリなキャスティングができたものだと感心する。主人公のリンは、スレンダーでどこか地味な印象を与える顔立ち。しかし、時折見せる賢しげで悪戯っぽい表情がたまらなく可愛い。けっこう複雑な性格をしていて、恐ろしく賢いものの、どうしようもなく子供っぽい部分も持ち合わせている。その辺りも、しっかりと丁寧に描かれていて良かった。

あと、大袈裟な演出が最高。スローモーションや、音楽を過剰に効かせた盛り上げ方は嫌いじゃない。前半は高校のカンニングという小さい事件を描写しているはずなのに、こういった過剰演出のおかげで、壮大なアクション映画を観ているかのような快感が味わえる。純粋にエンタメに徹している感じが素晴らしい。

格差や、日本とは比べ物にならない学歴社会など、単純に日本に置き換えることは難しい部分もあるのだが、そういったこともスッと理解できる作りになっていると思う。なので、なぜカンニングごときにここまでリスクと金を注ぎ込むのか?という点についても、自然と受け入れられるはずだ。要所要所に出てくる「たっぷりさせすぎ」なシーンは、私はキライではなかったが、もしかしたら冗長だとか、しつこいといった感想を抱く人もいるかも。『キングスマン』みたいなノリで観られて、私は好きだった。鉛筆口に突っ込むところとか、無駄に長い気もするけど(笑)面白かったからアリ。

ただ、かといって罪のない子供のおふざけに終始しているかというとそうでもなく、洒落にならない展開も用意されている。ただ面白いだけではなく、大きすぎる格差をはじめとして、社会の歪みを炙り出そうとする姿勢は保ち続けている。人を傷つけることの重みを、出来心とかハラハラドキドキで覆い隠すような軽薄な映画にはなっていない。そこも好きだ。

ハリウッドリメイク待ったなし!という感じはするが、その場合はSTICをSATに変える感じになるのかなあ。ただ、アメリカで一流大学に行くためにはSATの成績だけではダメだと思うので、設定自体をガッツリ変えないと難しいかも。かといって、韓国でリメイクしてもほぼ同じものが出来上がるだろうし、日本だと受験戦争の重みが違うし……などと考えるのもたのしい。
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