岡田拓朗

バッド・ジーニアス 危険な天才たちの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

4.0
バッド・ジーニアス 危険な天才たち(Chalard Games Goeng / Bad Genius)

まとめて合格、請け負います。
目指すは大学統一入試試験突破!
高校生ドリーム・チームが仕掛けた史上最大の頭脳ゲーム!

初のタイ映画鑑賞。
やはりアジア圏の映画とは相性がよい。

背徳的なカンニングを題材にして大切なことに気づかせる展開に、瀬戸際のハラドキ感のエッセンスがしっかりと盛り込まれていて、とてもおもしろかった。

学歴社会を象徴する背景から、それに伴う賄賂の問題、既得権益の恩恵を被る学校の裏目的のシステムそのものへの非難、立場(生まれる環境)の違いから来るヒエラルキーの中でお金で利用する/利用される悪しき等価交換とそれが生まれる社会の構造、テスト主義(特に回答までの過程がわからない形式)では能力や知識や資質を必ずしも正確に測りきれない問題点を、カンニングビジネスを天才たちが仕掛けていく形にしてあぶり出していく間接的な表現が色々と詰まっていて秀逸だった。

内容としては、当初のお金欲しさから来るカンニングビジネスが、更なる利益欲しさに規模が大きくなり泥沼化していき、収拾がつかなくなる感じで、能力を持つ天才がそれを利用して近づこうと寄ってきた友人によって悪しき方向に舵を切られる様が描かれている。
一度ハマったら抜け出せなくて、でも最後までずっとくっついているわけにもいかないので、結局どこかでこの関係を終えないといけないし、どれだけいっても(むしろ進めば進むほど)取り返しがつかず、堂々巡りになり、いつかは通用しなくなるときが来る。
今に精一杯になり過ぎてると、それがわからなくてああなってしまう。

でもそれだけじゃなくて、同じようなことあんたたちもしてるよねって、学校を統治してる側にも問題定義していってるところが個人的には好みだった。

天才の能力が悪い方向に繋がることほど、怖いものはない。
能力は考え方とセットでないと、とんでもないことになり得る。(京セラの稲盛和夫さんは、「成果=考え方×熱意×能力」という方程式を作っていますね。熱意と能力はマイナスにはならず考え方のみがマイナスになり得る。熱意と能力がよくても考え方がマイナスになっていたら全てが悪しき方向に導かれるという方程式。)
地下鉄サリン事件、横行している詐欺、3億円事件など…様々な事件は天才の考え方がマイナスの方に向かって起こっていることなのがわかる。

大規模な世間を揺るがす事件であればあるほど、そこには今の社会への批判や対抗が原動力になっていることが往々にしてあると思うが、今作は学校の悪しき構造と社会の悪しき構造への反骨心が少し、それと加えてお金儲けのためがあり、そのような考えから至る結果起こったことという意味では同じである。
お金と能力…持つ者と持たざる者が、それぞれの目的を達するために、共鳴し合って手を組むことの怖さと危うさ。

そのようなことをした(してしまった)ときに、こんなやり方、こんなことはしたらダメだと公正するか、よりそこに泥沼化してハマってしまうか…それは身近な人の存在と環境にかなり左右されることがわかる。それが大事。
そういう意味でいくと、バンクがああなっちゃうのは悲しいけどリアルで、妙に納得できてしまう。

脚本はそこまで特異な感じではなかったが、テーマ性と現実と想像を行き来して作品としての奥深さを助長する演出、クライマックスの部分のハラドキ感がかなり作り込まれていたのもよかった。
さらに最後、まさかの感動させられるという…。

カンニングという昔からある単純でチープな題材からでも、内容によっては世界に通用する作品を作れることを証明した作品でもある。
そういう意味では、「カメラを止めるな!」に近い感じ。
それがまさかタイから生まれるとは…!
うん、これはおもしろい!

P.S.
これが学歴社会、ヒエラルキーの弊害。
学歴社会って宿命みたいなものなんかな…おかしいと思いつつもどの国も同じ道をたどってる。
しかも国が発展してくればくるほど…これなら案外発展途上国である方が、ありのままに生きやすいのかもね。
岡田拓朗

岡田拓朗