ベルサイユ製麺

ザ・シークレットマンのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ザ・シークレットマン(2017年製作の映画)
3.4
あらあらなんと、大凡24時間ぶりのリーアム・ニーソン主演作でございます!そして、結構後悔しております…。今、ギザギザの石の上に正座して、石版三枚のっけております!結構きますね。

サッとだけ見たジャケットアートの、死相がクッキリのリーアム・ニーソン。ダークカラーのスーツ。バックにホワイトハウス。タイトル『ザ・シークレット・マン』…。それ以外の情報何にも無しでの、鑑賞前のわたくしの脳内の『シークレット・マン』は、“大統領直属のシークレット・サービスにおいて、誰もその正体を知らない最強の男がいた…。彼の名はジャック・グリフィン、通称“シークレット・マン”。ジャック「俺の名刺を渡された時からお前の運命は決まっていた。」“ゴキン!”(←首をグルンとするやつの音)
やがて上司の裏切りに会い、逃亡者となるとジャック…
みたいなのだと思ってたよぉ。
それで実際に観始めても、最初20分位は「あ、ベトナム戦争の頃の話なんだ…」「史実をベースにしたフィクションなんだ…」と来て、「…FBIの副長官?」と分かったあたりで始めて「実話か!」更に話が進んで「ウォーターゲート事件の話!!!!」となってしまいた…。間抜けにも程があるよ。『ペンタゴンペーパーズ』観たばっかりじゃん…。

リーアム・ニーソンが演じるのは、1972年当時のFBIの副長官マーク・フェルト。正義の権化のような男。
迫る選挙戦で再選を目指す共和党ニクソンは、睨みを効かすFBIをなんとか懐柔したい。そして永らく長官を務めたフーバーが急死すると、ニクソンは側近の司法次官グレイをFBI長官代理としてねじ込んできた。FBIの独立性・信頼性を著しく損なう人事にフェルトは納得いかないが、ホワイトハウスの意向に逆らう術は無い。
それから程なくして、ウォーターゲートビルに有る民主党本部に侵入し盗聴器を仕掛けようとした不審者が逮捕されるという事件が起こる。捜査の結果、この不審者たちが元CIAで、ニクソンを支持するグループに属していた事が判明。フェルトは事件の背景にホワイトハウスの関与を確信し、事の真相を明らかにしようとするが、長官代理グレイは二日間で捜査を終了すると宣言する。あからさまなホワイトハウスからの圧力に対し、フェルトがとった行動とは…。

…なんかオフィシャルっぽい結びになってしまって、ムズムズします。この後のニクソン退陣に至る顛末までを含めてが、世に言う“岡田斗司夫ニセ写真事件”(←風化させない)、もとい“ウォーターゲート事件”です。…多分。
事件の規模も影響も非常に大きいのでいろんな切り口で描ける訳ですが、今作の場合は共和党ニクソン、CIAの腐敗の中枢に命がけで爆弾を放り込んだ、マーク“ディープスロート”フェルトを主人公にしております。
まあこのフェルト氏がとんでもない正義感の塊でして、真っ白じゃなきゃ許せない、どんな小さなシミも我慢ならんというハイドロハイターみたいなお方なのです。空気も読まないしSONTAKUもしない。大統領相手でも我が身を顧みず噛み付くっていう、正に今の日本に欲しい人材なのですが、日本ではそもそもこういう人は偉くなれなさそうかな…。でも!映画は撮れるよねぇ⁈…なんなんだよ日本!

いつの間にやら60代半ばのリーアム・ニーソンですが、役作りでウエイト落としたりもしてるのだと思うのですが頰がこけ、草臥れた風なのに眼光だけがギラリと鋭く、何処と無くパラノイアックな雰囲気を漂わせています。もしこういう方の信念が正義とは逆の方向を向いていたら…なんて考えてしまいますね。
終盤の流れ、分かっていたこととは言え本当に切ないです。ジャンル真反対の映画でなんなんですが、『ザ・グレイ』の時と同様、ラストを締める表情を求められた時のリーアム・ニーソンの表現力はやはり凄い。画面から冷気が流れ込んでくるようです…。

作品自体の存在意義も大変に大きく、正に今日の日本人が見るべきテーマなのだと思います。映画のルックも落ち着いていて、目立つ綻びも無いし、意味的・倫理的な正しさも担保されているとは思います。…問題は、あんまり映画として面白くない…。娯楽性に乏しく求心力が弱いというか、“つい見てしまう”ような魅力が無いように思います。今一つ危機感を抱きにくい構成だし。『ペンタゴン・ペーパーズ』を観た後では尚更気になってしまう…。

そんな事も踏まえた上で、自分の“大後悔”部分はと言えば、ジャンル映画だと思い込んでダラけた態度で集中しきれないまま鑑賞し始めた事。あと、たまたま似ているテーマというだけで接点の無い2つの映画を無意識に比べてしまったのも良くなかったですね…。どちらも良くて、当たり前に違うだけだった。
映画の出来自体に敢えて言いたいことは無いのですが、邦題はあんまり良く無い気がします。原題どおりに『マーク・フェルト 〜ホワイトハウスをぶっ壊した男』みたいな雰囲気の方が良いかと。それか『リーアム・ニーソン 〜ドッグランじゃなくて予防接種に連れていかれてる事に気付いたハスキー犬みたいな表情の男』ではどうだろうか⁉︎