幽斎

スカイライン-征服-の幽斎のレビュー・感想・評価

スカイライン-征服-(2010年製作の映画)
4.2
恒例の「スカイライン」シリーズ時系列
2010年 4.2 SKYLINE「征服」まさかのお馬鹿黙示録の幕が上がる
2017年 4.0 Beyond Skyline「奪還」まさかの人間とエイリアンのタイマン勝負
2020年 3.8 Skylin3s「逆襲」まさかの宇宙での下克上バトル
2023年 仮題 Skyline4 まさかのロサンゼルス帰還、ウィズエイリアン社会を描く

始まりは2007年「AVP2 エイリアンズVS.プレデター」まで遡る。メジャー20世紀フォックスが総力挙げて、自ら生み出したキャラクターを「意味なく対決させる」おバカ映画として、複雑な権利関係を処理して「AVP」を製作。しかし、本家との関連性は薄く世界観が同じかも不明、映画の評価が散々だった事も有り、Paul W. S. Anderson監督は逃げ出し、誰も「AVP2」を引き受けない事態に。

其処へVFX製作会社「Hydraulx」創始者GregとColinのBrothers Strauseが「俺達が創ります!」と自ら名乗り出た。しかし無名の製作陣に脚本を提供する人物は居らず、作品のクオリティを保つのは難しい。一方で視覚効果に精通してる兄弟は、敢えて「エイリアン2」と同じ撮影方法、中古のカメラで撮影する事で恐怖描写を引き立てる演出を施した。が、試写を見たフォックスの幹部が「暗くて良く分らん!」とお冠で、後に北米で有料放送する為にコントラストを明るくした「特別編集版」を製作。日曜洋画劇場も「特別編集版」を放送。これが後の伏線と成る。

「AVP2」は映画的にも興業的にも惨敗。しかし、彼らの工房「Hydraulx」は絶好調で、映画の損失など鼻クソと笑い飛ばせる勢いが有った。彼らの名を世に知ら占めたのが「ターミネーター3」視覚効果は名門ILMが担当したが、駆け出しのHydraulxはCG処理、特に実写合成デジタル・コンポジットを安価で仕上げるソフトを独自開発、ILMの半額以下で請け負う事で有名に。その後「デイ・アフター・トゥモロー」で本格参入「AVP2」製作後は「2012」「アバター」で業界大手に躍り出た。

潤沢な資金を得たStrause兄弟は、リベンジに乗り出す。彼らを支援するべく「インシディアス」Brian Kavanaugh-Jones、「X-MENファイナル ディシジョン」Brett Ratnerなど、多くのプロデューサーが協力。「AVP2」が暗いと非難された汚名を挽回する「とにかく明るい所でエイリアンが暴れる」事を念頭に製作。又してもハリウッドに属する脚本家は参加せず「アバター」「アイアンマン2」のVFXを担当したメンバーでSFスリラーを目指したが、後に賛否が別れる元に為る。

製作費は当時の日本円で約9億円。作品だけを見れば100億円規模の大作と遜色ない仕上がりにハリウッドでは驚きを持って迎えられた。視覚効果マンが映画を作る事は珍しく無いが、今までと違い彼らはファイナンス的観点から映画を創る。「AVP2」が視覚効果を誤魔化す為に暗くした、そんな現場を知らない批評家の鼻を明かすに十分なブルーの閃光も印象的。シャカシャカしたカット割りで誤魔化すのではなく、昼光下でバッチリUFOを写す事で映画と言うより、CNNの生中継を見てる気に成る。そんな熱い映像は「こういうのでいいんだよ、こういうので」と多くのSFファンの心を掴んだ。

しかし、試写会で絶賛された映像に別方向から「待った!」が掛かる。本作と同時進行で製作されたソニー・ピクチャーズ「世界侵略 ロサンゼルス決戦」にシナリオが酷似。更に「世界侵略」のVFXも担当したHydraulxから、撮影フッテージの流用が指摘され、訴訟問題に発展。問題の根底は業界の覇権争い。ソニーはSony Pictures Imageworks業界大手のVFX製作会社を持つ。メジャーで視覚効果スタジオを有するのはSONYだけで「2012」も両者の凄まじいVFXが見所。出る杭は打たれるのもハリウッドの掟だが、本作を配給したメジャー、Universalの仲立ちで訴訟は取り下げられた。一説には手打ちした裏で彼らのソフトウェアを譲り受けたとの説も有る。ユニバーサルは本作のプロットを模倣して別の侵略モノを作る、それが浅野忠信出演「バトルシップ」。

本作が世間では評価が低い事は承知してる。しかし劇場公開された時、私は自身のブログで全力で擁護した記憶が有るし、それは今も変わらない。本作を「インデペンデンス・デイ」の様な時代遅れの作品と同系列で観るから、駄作と評される。本作は「SFソリッドシチュエーションスリラー」と言う新ジャンルに挑んだ実験的作品で、単純明快なプロットに優れた人物描写が絡み合う事で、従来の侵略モノとは一線を画す。例えば侵略の兆しや、舞台の規模を示す世界的視点、アメリカ軍の思惑等は一切映し出されず、全ては主人公の周辺のみと言う、推理小説で言うクローズド・サークルで描かれる。バッドエンド=駄目な作品、と言う決め付けはいい加減終わりにして欲しい。それならディズニーでも見てくれと言いたい。

ハイテク好きとしては極秘扱いだったノースロップ・グラマン社製「X-47 Pegasus」の登場。史上初のAI搭載の無人戦闘機は、パイロットでは不可能なGフォースが掛かる急旋回も楽々、個体同士が接近してもスレスレで回避。圧倒的なテクノロジーを持つエイリアン相手に堂々たる活躍を見せて実に誇らしい。実はこの戦闘機、海軍でのミッションで途中で雨が降ると空母に着艦せず、近くの空軍基地に戻った。システム障害かとX-47に問い質すと「空母への着艦に依る危険率70%、空軍基地への帰投に依る危険率20%、依って此方を選択した」と涼しい顔"笑"。このAI戦闘機のプレゼンテーションで製作されたのが、ソニー・ピクチャーズ「ステルス」。

Strause兄弟は大の日本ファン、子供の頃から日本のアニメで育った世代。来日した時も「日本に来れた!これも映画を作ったお陰だ」と大燥ぎ。監督がインタビューで力説したのは「特攻」シーン。自信満々に見えるアメリカ人も、時折日本コンプレックスを見せるが、映画のテーマが「自己犠牲」の精神。アメリカ人が持つ民族的トラウマ「カミカゼ」に対し敬意を払った演出を心掛けたと真摯に答えてたのが印象的だった。

「SKYLINE」地平線、連山が空を画する輪郭、日産の名車。アメリカ英語で言えば、故郷から遠く離れた土地と言う意味も有る。

粗削りなSFソリッドシチュエーションスリラー。続編は様変わりして肉弾戦に突入だ!"笑"。
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