しんご

判決、ふたつの希望のしんごのレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.5
民族間の「溝」や「闇」をこれでもかと浮き彫りにした重く滋味のある作品。人種ないし民族同士が相互理解することの難しさを非常にわかり易く描いているし、その困難さがあってもなお分かり合おうと前に進む人々の群像劇が秀逸。在日外国人に対するヘイトスピーチが「言論の自由」と衝突し憲法問題に発展することも多々ある近年の日本においてこの映画は「対岸の火事」としては済ませられないなと感じた。

レバノン人であるトニーは水漏れをきっかけに建築会社の現場監督であるヤーセル(パレスチナ人)と口論になる。謝罪要求に対し職務上の義務を全うしただけとこれを拒否するヤーセルとトニーの諍いは傷害事件にまで発展し、裁判へと持ち込まれる。この2人による小さな争いはまるで池に投げ込まれる小石のようで、公判および世論に大きな波紋を広げる。勝敗に関係なく幸せに生きたいだけのトニーの奥さん、政治的な側面を強調することで名前を売ろうとする弁護士、暴徒と化す傍聴人等ストーリーを支えるキャラクターの描かれ方がとても多面的でかつ展開がスピーディーなのでとにかく息をつく暇がない。

「裁判」という形式上どちらかが敗訴するわけだけども、その過程で上記の各キャラクターがウソ臭くなく少しずつ成長していくのが良い。トニーとヤーセルがそれぞれの車で帰る下りのシーンはグッときた。「どっちかが一方的に傷ついている」状況はあり得ないし、その上で民族がいかに共存していくかという本作のテーマの描き方には胸が熱くなった。

余談だが、本作がアメリカでリメイクされたなら、トニー役をマイケル・キートン、ヤーセル役をトミー・リー・ジョーンズにやって頂きたい。
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