ベルサイユ製麺

きみへの距離、1万キロのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

きみへの距離、1万キロ(2017年製作の映画)
3.5
ガール・ミーツ・デザートガンナー!!

なんとなく似たようなニュアンスの邦題の作品がいくつか有って混乱しますよね。コレは多分そのどれよりもヘンテコなお話、しかも相当ピュアでマジカルなラブストーリーであります!

デトロイト。深夜のクラブ(…っ行っきたい!)で口論する男女。結果バウンサーにつまみ出された男の方が、主人公ゴードン。初っ端からしょっぱいフラれガイだ!
ゴードンは警備会社に勤務していて、勤務地であるデトロイトから、北アフリカの石油パイプラインのパトロールをしています。…?
ジーガシャ、ジーガシャ、と機械音を響かせるのはロボコップ演芸を披露する吹越満、では無くて多脚式で移動する監視カメラ“ヘクサポッド”。これを複数台切り替えながらコントロールしてパイプラインに異常が無いかチェックして回っているわけです。操作は簡単なジョイスティック。自動翻訳出来る通話機能と簡単な銃火器も搭載してます!
ある日のパトロール中、人目につかない岩陰で女性が男性と密会しているのを目撃します。彼等は愛し合っているものの、もうじき女性は両親が決めたふた回りも年上の男性と結婚することになっていて、行く末を案じ沈んでしまっています。…その様をひっそり見つめるロボット。
独り身の寂しいゴードンは、一目でその女性に心を持っていかれますが、なんせこのふたりは愛し合っているのだし、こっちは1万キロ離れたデトロイトでジョイスティック弄る(メタファーでは無い!)ぐらいしか出来ません…。でも…気になる・気になる・気になる…。
それからゴードンロボは彼女を見かける度に、警備範囲から離れひっそり近づき、遂には彼女に話しかけてしまいます。彼女の名はアユーシュ。彼女は親の決めた結婚がどうしても受け入れられず、恋人と舟でヨーロッパへ逃亡しようと企んでいたのでした。しかしお金が必要…。「ヨッシャ!」とばかりにゴードン、彼等に資金を援助、逃亡の手助けをする事にしたのだった。…一方その頃、アユーシュの彼氏カリムは金を稼ぐ為に危ない橋を渡る事に…。

なんか変な映画!そして、なんか可愛い…。
恋愛映画としてはかなり変則的で、ゴードンはアユーシュの事が間違いなく好きなのだけど、どうする事も出来ないからせめて手助けをしたい。アユーシュは猫の手も借りたいが、この得体の知れないラジコンロボットの言う事を本当に信じて良いのか…。
お話の構造そのものはとてもシンプルです。登場人物も片手で足るぐらいです。原題が『Eye on Juliet』だったり、ロボットの名前も“Juliet3000”だったりと、“ロミオとジュリエット”をモチーフにしてはいるようですが、そんなに深く重ねてはいない様に思えました。個人的にはそれより寧ろ“デトロイト”“ロボット”の方が気になりましたよ…。「what’s your name?」に「juliet 」で、ジャジャジャジャージャー ジャジャジャジャーン🎶といきたいところですがね。
話の構成上、主人公ゴードンは動きの少ない演技を強いられるのですが、彼の佇まいがなかなか良くて、つい見入ってしまいます。基本的には善良だけど人付き合いが苦手で、物静かな変人タイプと思われている。寂しげなまま止まった表情が魅力的です。モニターの中の出来事に手を出せない状況って、映画の観客も同様で、だからつい彼のこと応援したくなってしまう。
アユーシュはワイルドな雰囲気の美人さんで、彼女の内面の描写はそれ程多く無い、のはゴードンの視点を重視したからかもしれません。まあ、とにかく純粋そうでこちらも応援したくなる様なキャラクターなのは間違いないです。

ロボットは…普通にドローンにした方が無理のない展開に出来た気はするのですが、地べたを這いずり回る感じが良いのだと思います。空から見下ろす神の目線なんて御免被りたい!

ストーリーはご都合主義的で、リアリティは薄め、メッセージ性もやや薄めに感じるのですが、そこはまあ御伽噺みたいなものだと思って飲み込みたいです。個人的にはこの手の微かな望みに賭けるお話が大好きなのでやたらと気に入ってしまいました。

監督キム・グエンさん、今後も要注目…と結ぼうとしたら、なんだ、あの白熊三角関係映画『ホワイト・ラバーズ』の方ですか!どうりで変!ズレまくったロマンティックさ、最高です!もちろん要注目。