針

マリア・ブラウンの結婚の針のレビュー・感想・評価

マリア・ブラウンの結婚(1978年製作の映画)
4.1
これもいつか観たかったやつ。無事に観れて嬉しいです!

結婚生活1日目で夫が出征してしまい、そのまま終戦を迎えたドイツの女性マリアを主人公にした、たくましき戦後物語、ではあるのですが……。
同じ敗戦国ということで日本の戦後を描いた映画とも少し似た手触りを感じました。しかし復興映画というよりは敗戦映画という印象のほうが強い作品でしたねー。

なりふり構う余裕のない戦後の窮乏の中、1人の妻であると同時に欲望も肉体も持った1人の女性としても生きていくマリアのバイタリティーがすごい。と同時にちょっと行き過ぎてて感情移入しづらい部分すらあって、そのへんのバランスがある意味面白かったです。非常にリアリストな部分があるのにその根源にはあくまで「理想の結婚生活」が置かれているというアンバランスさが良いです。

終わってみればマリアは別に取り立てて聖女でも貞淑でもない、自立心の強いふつうの女性なわけで、彼女にも非はあるんだけど自分はけっこう気持ちが掻き乱されました……。この時代のこの国の女性であったがゆえの苦難としては、あるいはあり得たかもしれない人生なのかなぁと。あとは、♪男と女のあいだには、深くて暗い河がある〜、ってなことを思いました。

その他。
音声について。この映画では俳優のセリフにラジオ放送が被せてあったり、BGMが鳴ってる状態で登場人物がピアノを弾いたりと複数の音が同時に響いてるシーンが多かったなと。シーンの切り替えの目まぐるしさとも相まって、全体的に猥雑さが高まってる印象。ラジオ放送についてはメインストーリーの内容と戦後ドイツの歩みを重ねて見せようという意図もあるのかも。
ただ、ときおりなんというか昼ドラみたいな大仰なBGMが鳴るシーンがいくつかあって、ちょっと映像のテンションに合ってないのではと思うところもしばしば。

主演のハンナ・シグラはけっこうよかったですが、先日観た『ペトラ・フォン・カント』のほうがちょっとよかったような気はする。あっちの方が1人の人物を数秒から数分間じっくり映すタイプのカメラワークだったってのもあるかも。

ともあれ、今まで観たファスビンダーの中では一番エンタメっぽさが強くて取っ付きやすかったです。ほとんど観たことなかったけどドイツ映画も面白いのがたくさんありますね。
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