茶一郎

忘れじの面影の茶一郎のレビュー・感想・評価

忘れじの面影(1948年製作の映画)
4.4
 愚かな男と、純真な女性、二人の悲劇。本作『忘れじの面影』は今まで他者、特に異性と不誠実に接して来た人にしてみれば、下手なホラーよりも怖いラブロマンスに見えるかもしれません。

 プレイボーイのピアニスト、ステファンの元に届いた手紙。記憶に無い女性から届いたその手紙は「あなたがこれをお読みになる頃には、私は死んでいるでしょう」という一文から始まるものでした。手紙の続きを読むに従って、ステファンの中に蘇る女性との記憶。この『忘れじの面影』は、甘美なメロドラマの様相で、女性の記憶と記録が次第に、まるで亡霊のように男性に取り憑いていく過程を描く「恋愛怖いね」型ホラーだと思いました。

 マックス・オフュルス監督は徹底的に美しい画面構成、カメラワークで、この悲劇的な「運命の恋」、20世紀における女性差別を描きます。オフュルス作品では『輪舞』と真逆、『快楽』から続くようなアンチ・ラブロマンスの極みが本作であるように思います。
 何よりも怖いのはラスト。ステファンの後ろで蘇る女性の笑顔に戦々恐々でした。
茶一郎

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