るる

ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男のるるのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

ドキュメンタリーとしては、素材とエッセンスは凝縮されてたけど、ファッション門外漢には彼がなんのショーに取り組んでいるのかがよくわからず、ブランドの歴史や過去のショーの解説が挟まれるものの、着地点がわからなかったので、物語としてのカタルシスは薄めだった…2016-17年秋冬のパリ・オペラ座でのショーがゴール、予告編を先に見ておけば良かったかも。
でも、タイムレスなものを作りたいと言い、上も下もなく過去も現在も全て同列に扱う、というドリスの世界観をそのまま表現したとも受け取れた。ただ、93分、これ以上長かったら疲れてた、限界ギリギリだったかな。

一番見たかった、彼がアイディアを思いつく瞬間、各作品に名前をつける瞬間、広告を打たずとも客から注文がくる様子、成功の瞬間、みたいなものが写ってなくて、ちょっと欲求不満。
あの生活をしながら常にアイディアが浮かんでは消え、浮かんでは消えしてるのだろうけど。淡々とショーをこなしていく様子はある意味、化け物じみて感じた。

家のインテリア、彼が作る服と同様、色数が多いのに、完璧に調和しているの、クラクラしたし、ゾッとしたなあ。家事にも庭仕事にも手は抜かない、という言葉通り、作ってる料理も彩り豊かで、彼が作るファッションそのもののような、完璧な暮らしをしてる…病的な完璧主義者という言葉通り…

でも、余裕があるのが、もうほんとすごいなって。『ディオールと私』で追い詰められた姿を見せたラフ・シモンズなんかとは違う、自然体でいることの余裕を感じて、人柄と作品がマッチしてる、日常とファッション、生活と作品がどこまでも地続きにあるヒトなのだ、ということを突きつけられて、また圧倒された。
ファストファッションではなく、日常的に着られる服、着る人に合わせて変化し成長する服、カスタマイズできる服…なるほどなあ…

公私ともにパートナーの彼と、ショーの後、毎回抱き合ってキスをする姿が印象的だった。休暇なんてない、なんという世界。でもやっぱり、余裕たっぷり、悠々自適な生活ぶりに見えたな…

ただ、インドの生地屋の描写にはちょっとドキッとしてしまった。1988年の時点で、インドにファッションは存在しなかった、モードとも無縁、と言い切れてしまう、西洋社会に生きる者の傲慢さよ…彼らの仕事を途切れさせないようにしてるんだ、というけれど、彼らがショーを実際に見ることはないんだ、作り手として尊敬され招待されることはないんだ、と思うと、なんかな…

手作業であの複雑な生地を作る職人たちへの敬意があるなら、職人たちや、職人たちを統括する彼女たち、インド人たちにもインタビューしてほしかったよな。ファッションを支える、末端の言葉も聞きたかった。それだけで印象は違ったと思う。

『人間機械』も見ておきたいなあ。

モデルたちのまるでロボットのような姿にも、なんだか薄ら寒いものを感じてしまった。ファッション業界ってほんとに…なんだかな…ショーの後、モデルたちを写真に撮り、記念撮影する観客たちもなんか…なんともな…

言葉も色も多彩で濃密だったけど、スッキリはしなくて、うーん。

あ、そうそう、犬。仕事場で生地を食べない、イタズラしない、ショーの現場で吠えないの、偉いなって思った。

追記
あの庭、東京ドーム6個分以上? まじでか。プーチ傘下に入るまでになにがあったのかな…
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