ベルサイユ製麺

ファントム・スレッドのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.4
こんな作品に言えることなんて碌に無いです。
全ての要素が最良にセッティングされ、(無理に寄せて表現すれば)縫い目すらデザインのように思えてしまうほどのスムーズさ。なにかと過剰になってしまう芸術表現はガキの手慰みなのだろうか?
衣擦れの音すら美しく、深く刻まれた皺のその迷いの無さに、自分は画面の前にすら身の置き場が無い気分で着古したカーディガンの毛玉が恋しくなる。ドブに頭から突っ込みたくなる。

愚直に、真っ直ぐに縫い続けるレイノルズ
弧を描き、彼の人生に交わったアルマ
交わる瞬間は完璧だったけれど、2人はいつか致命的な絡み方をする運命だった。それだけのこと。

光も、動きも、録音も劇伴も、全てが完全に溶け合い、一瞬と永遠が同居する世界。ストーリーは言葉にすれば悠々140文字以内。でも、どれほどの文字数を費やしても、この作品の事は少しも伝えられない。伝えてしまえないので頭に留めておくしかない。
…という事でホントに『ファントム・スレッド』のレビューはここでおしまい✂︎

🛩私とPTA🐸
ずいぶん昔、元々悪い心の具合が、故あって危機的なレベルまで落ち込んでいた時期が有り、その時に“なんでもよいから夢中になれるものを”と手を伸ばしたのが映画だったのです。最初に何となくレンタルしたのが『アメリカン・ビューティ』と、『マグノリア』。
自分は『マグノリア』の、あの奇想天外なラストに、あっけなく、しかしギリギリの線で救われたのです。“どんな事だってあり得る”
それから自分は生きのびるために映画を貪るように見続けるようになりました。(遡って映画を観ないのは、過去の一点に留まってしまう様になるのでは?という恐怖心からです)
往々にして、好きになったキッカケの物には本能的にひれ伏してしまうもので、自分は以降のPTAの作品とは上手く距離を取れず、ただ崇め奉るような雰囲気になってしまったのですが…
…正直言って『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以降の重々しい作品群は自分如き低脳には全く理解出来ている気がしておりません☀️ははははは…
そりゃあ、例えば『インヒアレント・ヴァイス』は彼のフィルモの中でも私的ベストですよ!だってバカみたいでロマンチックで切なくて、あんな映画他に無いもの。大好き。でも、作品の本質はやっぱり碌に分かってないな…。
『ファントム・スレッド』、やはり紛れも無い傑作でした。何にも分かって無い自分が観ても傑作であるのが一見して分かるレベル。もしコレを罵倒するシネフィルがいたらパイをぶつけてやる。トムジェリ風の錘入りのパイ。それか例のキノコ入りの。
人柄は別として、PTAの妥協一切無しの作品作りにかける姿勢は今作の主人公レイノルズと重なって見えました。いつも身を削って、素晴らしい作品を生み出してくれて本当にありがとう。
自分には理解が及ばないような思考の遥かな先の地平で、今も彼の作品が誰かを救くいまくっているのだと想像すると胸が熱くなります。…勿論今後も見続ける所存。分からないなりに。生きる為に。