パンナムの旅客機から着流し姿の健さんが刀を小脇に抱えて降りてくるところがシュールで、しかも同時に安藤昇も空港に到着しているという謎に緊張感の高い冒頭シーン。
しかし言いたいことはこれに尽きる。とにかく健さんの顔に元気がない。
すでにヤクザ稼業から足を洗って銀座で寿司職人になっていた健さんと、ヤクザの役にウンザリしている健さん本人とオーバーラップしてしまう。
でも健さんは義理堅いから、最終的にはすべてを投げ捨ててひとりで殴り込みをしてしまう。またこのパターンかと本人が一番思っているに決まっている。期待する観客との我慢比べが行き着くとこまで行ってしまった感じだ。健さんが仏壇の前で正座したままほぼ丸一日が経過してしまうシーンなんてその最たるもの。
本当は会話の少ない任侠ハードボイルドがやりたかったのかもしれないが、淡々としすぎてまったく盛り上がらない。橋本忍の脚本のせいかもしれない。東映特有の常識を逸脱した表現がまったくないので、顔ぶれの濃厚さに反してパワー不足が目立ってしまう。本当はこの人が東映任侠映画の脚本を書いていること自体すごいことなのだけど。
スタッフとキャストのクレジットをこの時期の日本映画では超異例のエンディングに持っていったのは、あまりのつまらなさに途中で客が帰ることを見越して、監督の名前に傷がつかないようにしたのではないかと思うほどであった。ハッキリ言って石井輝男監督の映画では今のところダントツでこれがワースト。