真鍋新一

首の真鍋新一のレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.9
たけし一座のノーモラル戦国大殺戮絵巻。映画館を出て駅まで歩く時、撃たれるか刺されるか斬られるかでメチャクチャ警戒してしまった。最終的には人間生きるか死ぬかしかなくて、そこの恐怖や緊張を感じられただけで充分に面白かった。

『アウトレイジ』では今ひとつもっさりしたような感じのあった演出が時代劇だと上手くハマった。構想30年だというから、歳を取ったらやろうと思っていた題材だったんだろう。昔だったらいちいち登場人物の名前の字幕テロップなど出さずにやっただろうが、誰が誰だかわからなくなって話が追えなくなるなら出したほうがいい。

ギャグの場面をどう観るかで評価が分かれるのだろうと思う。おどけてないで真面目にやれという気もするが、あれがないと本当に悲惨な映画になってしまう。中村獅童が一晩中ゲロ吐きながら走らされてる場面も笑って見られるからこそまだ救いがある。話の途中でたけしと大森南朋と浅野忠信の3人でカメラ固定の長回しコントになってしまうところも贅沢で愉快だった。秀吉が「ダンカン馬鹿野郎!」みたいなテンションで「秀長馬鹿野郎!」とか言うものだから、もう笑うしかない。

とはいえお笑い業界のメタファーだとか、オフィス北野騒動のセルフパロディだとか、そういうことは別にどうでもいい。いろんなドラマや映画で観てきた本能寺の変のなかで、これがもっともスリリングで面白く、しかもわかりやすかったということに一番意義がある。

あとは男色の描写。撮る人が下手だと見ていられなくなるところだけど、遠藤憲一の、あのキラキラ恋する瞳を見てすっかり納得してしまった。そしてそれを受ける西島秀俊もまた恋人の顔だ。おいしい役だった勝村政信、大竹まこと、堀部圭亮に仁科貴、劇団ひとりや柴田理恵に至るまで、出落ちスレスレのキャスティングも豪華でそれも楽しかった。

そしてやっばり衣装は黒澤和子さんが担当しているとクレジットを見て、あぁ、志はちゃんと引き継がれたんだな…という満足感もあった。生前の黒澤明監督にこの映画のプロットを話していたということはさっき知った。『七人の侍』や『用心棒』を最初に観た観客のショックはこんな感じだったのだろうか、などと思ったりしたのでうれしかった。

傍若無人、理不尽極まりない人々の描写に説得力があるのは、本当のパワハラや恫喝を見たり、したりしていたからだろう。自らの才覚ひとつで偉大な存在になった芸人、アーティスト、エンターテイナーの最後の宴みたいなものなのかもしれない。
真鍋新一

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