アニマル泉

愛と希望の街のアニマル泉のレビュー・感想・評価

愛と希望の街(1959年製作の映画)
5.0
大島渚の長編処女作。犯罪から貧困や社会を問う大島のスタンスが早くも確立されている。鳩が戻ってくるのを悪用した少年の犯罪という設定が見事だ。「青春残酷物語」の美人局や「少年」の当たり屋につながっていく。
川崎のスラム街、川辺の木場あたりが舞台だ。大島はロングが素晴らしい。少年(藤川弘志)が真っ直ぐ走ってくるカットがいい。少年の家で倒れた母(望月優子)が奥に寝ていて人が集まっている、そこへ少年が帰ってきて、だんだん人々が居なくなっていく、最後は少年と母と妹の三人になる、この長い固定ワンカットも素晴らしい。坂道を渡辺文雄が駆け降りて千之赫子に追いついて少年が入社試験を落ちた真相を打ち明ける場面のワンカットも力強い。少年の家で千之赫子が母と妹の前で少年を叱る場面を固定ワンカットで押したのも新人らしからぬ度量だ。
大雨のなかの少年と京子(富永ユキ)と不良達の殴りあい、びしょ濡れ、泥だらけの場面も印象的だ。一方で、鳩小屋にズームイン・バックで日替わりしたり、カメラマスクから千之赫子が階段を降りるシーン変わりなどのテクニックはこのあとの大島が封印してしまうレアな若々しさだ。
本作の尺は63分。全ての場面を少しづつカットしてシーンカットなしで詰め込んだ感じがする。
渡辺文雄と富永ユキのブルジョワ家庭と、少年の貧困家庭や千之赫子の庶民との階級差、社会が生んだ貧困、やるせなさがテーマである。大島は怒る。「破壊」の主題が現れる。「破壊」の主題は二つのクライマックスで描かれる。一つは少年の鳩小屋の破壊だ。優等生だった少年は制御が効かなくなって鳩小屋を粉々に叩き壊す。泣き叫ぶ妹に母は自分の顔を描けと促す。もう一つは京子が少年の鳩を放って渡辺文雄の猟銃で鳩を撃ち落とす場面だ。鮮烈な狙撃である。平和の象徴の鳩を撃ち落とすアナーキーさは大島ならではである。
「磨きましょう」女たちの靴磨きも心に残る。題名はやはり「鳩を売る少年」にすべきだった。白黒シネスコ。
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