まぐ

FAKE ディレクターズ・カット版のまぐのレビュー・感想・評価

4.2
見る前と見た後で少なからず自分の中でのメディアに対しての認識が少し変わった。

途中の森さんの「テレビには信念がない。演者をどう使えば面白くなるかだけ」という言葉がこの映画の全てを表すと同時に、佐村河内氏に移入してきていた観客に一度この映画からも距離を取らせているのがおもしろい。
確かに今まで佐村河内氏側に立って考えたことなど一度もない、というか佐村河内氏が難聴か否か知ろうとしなかったところにメディアの「佐村河内は難聴ではないのでは?」という情報操作を受けていたものだから、どちらかと言えば難聴は嘘なんじゃない?位に思っていた。
しかし長きにわたるドキュメンタリーの撮影は、少なくとも自分には佐村河内氏はそこに関しては嘘をついていないということを証明したように見えた。
映すもの、素材の調理の仕方でここまで自分が簡単に見方を変えられることを実感して驚き、少し怖くなった。

ラストに佐村河内氏がなにも答えず考え込むシーンがあるのは、初めは「この映画に映っていたものすらフェイクなのか?」と疑わせるためだとおもっていたが、今では少し違うのかな、とも思い始めた。
佐村河内氏は、真実や嘘の定義付けを考えていたのではないだろうか。
ある人のレビューで「真実などない。あるのは解釈だけだ」というニーチェの言葉が引用されていたが、何が嘘か真実かというのは、本当はこの世に存在しない尺度なのかもしれない。佐村河内氏はあの紙を使って作曲の指示をしていたことを真実という名前で呼んだ。しかし他の人は嘘と名付けた。それだけのことだったのかもしれない。

佐村河内氏が作曲した曲を流すシーンは美しく、曲からは怒りや悲しみを感じた。自分はそれを真実と名付けたいと思う。
まぐ

まぐ