噛む力がまるでない

豚の王の噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

豚の王(2011年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

 『新感染 ファイナル・エクスプレス』の監督ヨン・サンホが2011年に製作したアニメーション映画である。

 ヨン・サンホは今敏のファンらしく、そう言われてみると、今敏の作品のリアルな恐怖と現代の闇を描いたスリラーを意識しているんじゃないかという感じがする。ギャンミン(声:オ・ジョンセ)たちの回想パートと現在のパートには並行して不吉な雰囲気があり、話を二重に引っ張る構成が面白い。
 階級問題のテーマと復讐劇のバランスが絶妙で、金持ち同級生に虐げられているギャンミンたちが、チョル(声:キム・ヘナ)を自分たちの王とし結託していく中ですれ違いが生じて最後には悲劇を迎えてしまう。大人になってからも続くルサンチマンを抱えた者同士の皮肉な運命に社会批判が込められているわけだが、それ以上に皮肉なのは、いじめていた同級生たちは大人になってもギャンミンたちや死んだチョルのことなど思い出すことはなく、楽しくあの頃を振り返っているだろうと想像できるところだ。この映画が一番恐ろしいのは、そんな最もイヤなことを易々と想像させる演出力にあると思う。