カルダモン

万引き家族のカルダモンのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.0
一方向から語ることは出来ない。私たちが考える正しさが一つの家族を解体する。どちらの視点に自分を置いたとしても、どこの町の片隅もあるかもしれない境目が立ちはだかる。
これまでの是枝作品の様々な場面が思い起こされ、人に近い距離で世を見据える構図はいつにも増して、やはり生々しく強烈。
スーパーで盗る物のチョイスがリアルで、どうしても欲しいものなのだろうかと思いながらも、その品物の中にどうしようもないその人なりの瞬間の選択が見える。
現在の社会問題が背景にある一方、是枝作品に一貫しているのはそういった社会問題の提起よりも、どちらかというと誰も掬い上げないような些細な事柄、その中に見え隠れする人物像で、結果として事の問題が浮き彫りになるという逆説の視点があるように感じます。
この家族が犯罪で繋がってるとは思わないし、予告にあるような「盗んだのは絆でした」とも思わない。
繫がるきっかけが犯罪であっても、きっかけから生まれた放って置けない気持ちは犯罪とは呼べない。外からみれば異様な集団であっても、なんら変わらない家族の在り方が自然と形成されていく。血が繋がっていてさえ家族間の関係がままならない現実がある中、なにが家族たらしめているのかを考えざるを得なかった。本来なら救済すべき社会が機能できていない、その発露としてこの家族がある。

親も最初から親だったわけではなく、子の成長とともに親が形作られるのだろうし、親になれない親がいることは、先日起きた目黒区の虐待死の件でも明らかで、極端ではあるけど、血縁などは大した問題ではないのかもしれない。
血が繋がっていてもいなくても、父や息子や妻や妹、それぞれの役割を演じることに変わりはない。
養子縁組なんて法律上の手続きを踏まなくても、連れ子だって里親だって、当人同士の絆と役割で、自ずと家族の形は出来上っていくものなんだと、この映画は救いとしても見ることができる。

是枝作品のドキュメンタリー的視点や演出はフィクションでありながら同時にフィクションの枠を外す。毎回どこかしらに突発的な要素が入り込み、現実と映画を繋げてくれるので、見終わった後の他人事じゃないリアリティが凄い。これは国内外問わず他の映画ではなかなか味わえない魅力だと思っていて、特に興味深いリアリティ表現としては音のクローズアップがあります。風や雨などの自然現象、食卓での茶碗と箸が擦れ合う音、薄い床をドタドタと踏み歩くような生活音。セリフを強調するためには本来邪魔であるはずの雑音が、見事な演出のひとつに融合していて、音の一個一個に、生命力が溢れて愛おしいと感じてしまう。

役者の演出についても同じで、撮影中にゆりちゃんの歯が抜けたり、大雪の中で翔太とリリーが雪だるまをつくる場面はもちろん脚本段階で盛り込まれているはずもなく、直接物語に関係無いまでも、時間の経過と生命力を感じずにはいられない。
安藤サクラのゲップのシーンなど、あんなにも笑いながら同時に泣きそうになったのは久々だった。
彼女の存在感は是枝作品でより一層際立って、なかでもやはり取調室で真正面から捉えた表情は圧倒的でした。あまりにも言葉以上に語られてることが多く、何度も涙を擦り付ける姿に絶句する。

細かい点は挙げればきりがないけど、
樹木希林に漂う濃密な死の臭いと、松岡茉優の視線の美しさに脱帽。細野さんの音楽も素晴らしい