かなり悪いオヤジ

万引き家族のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
3.4
万引きによって生計をたてている家族の絆を描いた映画なのか。それとも、ダルデンヌ風の映像で貧困と再生を描こうとした映画なのか。ラスト、唯一法の裁きを受ける信代(安藤サクラ)の罪状に注目すると全く別の見方ができる1本である。

家族が暮らす隅田川沿いのあばら家をロケハウスに選んだ是枝は、美術のお姉さんに徹底的な“汚し”処理をするよう注文を出したという。そんなゴミ屋敷に集う家族が、周囲から隔絶した闇の中に花火のようにぽつんと浮かぶシーンが印象的だ。

本編で詳細は語られないものの、自分の本名を子供たちにつける治(リリー・フランキー)や亜紀(松岡美優)もまた、かつては親に見捨てられた子供たちだったのではないか。日雇い労働と風俗嬢に身をやつした現在は、親からそして社会からもネグレクトされた存在なのだろう。

幼いゆりにも万引きの手伝いをさせようとする治のやり方に疑問をいだきはじめる、自分の本名さえ知らない翔太が駄菓子屋の店主(柄本明)に万引きを見逃してもらった時、亜紀が4番さんとふれあった時、そして信代と治がSEXした時、けっして自分たちが幽霊ではないことに気づいたのではないか。

しかし社会というものは残酷にできている。一度見捨てた人間たちに対し、けっして居心地のいい楽園を与えたりはしない。その証拠にこの偽家族は、世間のスポットライトを浴びた瞬間、いとも簡単に“絆”を放棄し、ものの見事に崩壊してしまうのである。

本作で描かれている“万引き”とはつまり、(自分たちを捨てた社会への復讐というよりは)夫や親、そして社会からゴミのように捨てられた人間たちの、「自分の存在に誰か気づいてほしい」という“声なき心の叫び”だったのではないか。是枝が当初考えていた映画タイトル『声を出して呼んで』に映画の真意がよく表れている気がするのだ。

万引きを助長する反社映画との的外れな批判もあるようだが、むしろ是枝裕和の進化したストーリーテリング・テクニックを堪能すべき作品といえるだろう。「捨てたんじゃない、ひろったんだよ」信代がふともらしたこの台詞には、パルムドールを受賞する確信がこめられていたのかもしれない。