もるがな

劇場版 幼女戦記のもるがなのレビュー・感想・評価

劇場版 幼女戦記(2019年製作の映画)
3.9
ターニャ・デグレチャフのキャラクターのみで完全に世界観がキマっている作品。アニメにおいては何よりもキャラクターが一番大切というのは明々白白な事実でありながら、ここまで尖らせたことに圧倒されてしまう。合理性の怪物でありながら、幼女というキュートな容姿で戦場を駆け、当人の反戦思想とは裏腹に神輿として担がれて前線へと送り出される様はスラップスティックじみた滑稽さに満ちており、一見すると萌え要素になりがちな設定をキャラの内面描写だけで逸脱させている手腕が見事。実際は描写というより作者の自己投影が非常に強いキャラではあるのだが、その辺りは異世界転生というシチュエーションでクリアしてるあたり隙がないと思った。ターニャのガチガチの反共主義には苦笑するしかないのだが、市場原理の奴隷がそれを語るあたりが一番の萌えポイントだと思う。

アニメ版も面白かったのだが、ターニャの存在が際立っている反面、それに向こうを張るだけの強烈な敵役が存在しないのが若干の不満ではあったが、劇場版はメアリー・スーという、これまた皮肉なネーミングのキャラクターにスポットライトが当たっている。復讐者で、信仰心に篤く、魔力の天才という、一見すると普通の小説なら主人公格になるだけの人間である。しかし上官の命令を聞かず、秩序を無視し、単騎で突撃するその戦いぶりはターニャとは完全に真逆であり、それは軍隊においては一番の弱味であるというのを冷徹に描写していた点はとても良かった。個人的にはもう少しメアリー・スーぶりをより強めて、神の加護の元に理不尽な脅威として立ちはだかるのが見たかった気もするが、ターニャを追い詰めただけでも及第点ではあろう。

劇場版というより少し長尺にしたアニメのスペシャル版、といった印象ではあるが、航空魔導大隊によるド迫力の空中戦と音響はまさに劇場版といった感じで、映画館で見たいと思った作品ではあった。
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